ホーム | 特集 | 2017年新年号 | ざっくばらんに行こう!=日系社会面編集部座談会=さあ、どうなる?!=1年半後に迫った移民110周年

ざっくばらんに行こう!=日系社会面編集部座談会=さあ、どうなる?!=1年半後に迫った移民110周年

昨年の日本祭りでにぎやかに会場を行進する太鼓の子どもたち

昨年の日本祭りでにぎやかに会場を行進する太鼓の子どもたち

【深沢】さて、今回のテーマは移民110周年。2018年6月18日まで、いよいよ一年半後に近づいてきました。でも、肝心の「110周年実行委員会」がまだできてないんだよね。
 12月10日に文協評議委員会を取材した時、呉屋春美会長に「実行委員会はどうなっていますか?」って尋ねたら、「半年前から準備委員会は始まっているけど、まだ代表者が決まらない。何人かに代表者になってほしいとお願いしたけど、誰もウンといってくれないので、私たちも困っています。でも新年1月には発足させたい」と言ってたね。
 本来なら2年前ぐらいに発足して、1年前にはほぼ計画が出来上がっているのが理想。というのも、皇族や日本の政治家をお招きするには、1年前には決まっていないとスケジュールが埋まっているからね。
 ところが、組織すらできていないから、当然、記念事業に何をやるかも全く決まっていない。
【小倉】なるべく早く発足させた方がいいですよね。
【深沢】遅くとも6月には大筋が決まっていないと、まずいだろうね。
【小倉】実行委員会というのは、5団体に限らず日系諸団体で運営していくものなんですよね?
【深沢】そうだね。基本は5団体が集まって準備委員会とかやっているんだけど、呉屋さんに聞いたら、「実行委員会は5団体の人間である必要はない」って言ってたから。
 極端な話、天野鉄人さんだっていい訳だ。「式典の資金は俺が出す」って言ってくれるかも(笑)。
【國分】それは豪華になりそうですね!
【深沢】評議員会で聞いた噂では、実行委員長をSOHOの飯島さんにっていう説もあったらしいよ。結局、なくなったらしいけど。
【小倉】ほう。その人事はすごいなあ(笑)。


やっぱり、ごらん頂くなら県連日本祭り?!

県人会の郷土食ブースにはたくさんの来場者が

県人会の郷土食ブースにはたくさんの来場者が

【深沢】皇族の方に110周年に来て頂けるのであれば、サンパウロではやっぱり県連日本祭りを見ていただきたいという声を良く聞くよね。
【小倉】なんといっても日系社会最大のイベント。日本文化をテーマにした行事としては、日本以外では世界最大級。当然、県連や県人会関係者の多くは、「ぜひ一回は皇族に見にきて頂きたい」と思っているでしょうね。
【深沢】ところで新人の國分さんは、日本祭りを見てどうだった?
【國分】「祭り」というよりは、「博覧会」みたいでした。
【深沢】そうそう。博覧会だよね。日本以外で、ああいう大規模なものが開催されているのは、どう思った?
【國分】やっぱり、日系社会の歴史を感じたというか。県人会もみなさんが並々ならぬ努力をされてきたのを感じたというか。素晴らしい祭典だったと思います。
【深沢】國分さんとしては、どの辺が一番すごいと思った?
【國分】来場客数ですかね。ブラジル人も含めて老若男女、とにかく、人がいっぱい。
【深沢】新人の大澤君はどう?
【大澤】日本にいるとき「日本祭り」は聞いたことが全くなかったです。
【深沢】そうでしょ。
【大澤】でも実際見てみて、47都道府県の郷土食が全て揃っているというのがすごいと思ったし、それを支えている婦人会やボランティアが、何日も何日もかけて準備をしていて。日系社会の動員力というか、結束力を見た気がしました。
【深沢】ボランティアの数が何人っていったっけ? 3千だか、2千人だか。
【小倉】まあ、そのくらい、いるんじゃないですかね。
【深沢】来場者じゃなくて、ボランティアの数だからすごいよね。それだけボランティアを動員できるイベントっていうのは、全伯探してもないよね。入場者だって実質、週末の2日間で17万人でしょ。
 もし皇族に見ていただけるのであれば、サンパウロ・エキスポ会場で移民110周年式典をやってもいいよね。
 あの会場には2千人収容の最新設備のホールもあって、駐車場からすぐの場所にある。警備面を考えても、そこでやった方がいいんじゃないかというね。どうせ主だった日系団体代表はそこに集まっているし。
【小倉】もっと収容人数が多い所の方がいいんじゃないか、という話もありますよね。
【深沢】パラナは100周年の時、7万人集めたからね。すごかった。
【小倉】うーん。
【深沢】サンパウロもそれに負けないような人数を集めるようなことを、本当はしなくちゃいけない。80周年までは4万人収容のパカエンブー競技場だった。でも今は難しいだろうね。でも、日本祭り会場のあちこちに、食の広場とかにテロン(大画面映像)をおけば、数万人がその式典を見ることになる。
【小倉】和歌山のお好み焼きを食いながら式典を見るというのも、オツですね(笑)。
【深沢】日本祭りの会場を手伝っている若い人とか婦人部の人とか、その時だけちょっと手を休めて見てもらってね。インターネットで全伯日系人に生中継とかもしてほしいね。ブラジルのメディアもいっぱい来るだろうし。そういう意味でより開けた式典になる。
【小倉】でも式典は「移民の日」がある6月18日前後じゃないんですか。県連日本祭りは7月ですよね。
【深沢】学生ボランティアは学校が休みになる7月でないと集まらない。だから日本祭りと合わせてやるなら、式典も7月にしなくちゃいけない。今からだったら7月に合わせて調整も可能じゃないかな。


地球の逆側でこの規模で「同じこと」をする凄さ

【小倉】日本国外の「日本祭り」関係だと、パリが一番と聞きますね。でも、あそこはアニメのイメージが強いんでしょ。確かにアニメはキャッチーではあるんだけど、「本当の日本文化」ということで言えば、こちらの日本祭りはもっと日本に知ってもらう価値があると思うんですよね。
【深沢】だけど、日本の人にとっては、ここの日本祭りには、日本でやっていることと一緒の部分が多いから、インパクトが少ないらしいね。だから、日本のメディアがきても記事にすることはないっていうことになる。
 でも、本当はそこでもう一歩認識を深くして、「同じことを地球の反対側のブラジルでやっているんだ」っていうことの凄さに気付いてほしいよね。「日系人なんだから日本と同じことをして当り前」みたいに思っているところがあるでしょ、日本の人は。そうじゃないんだよね。二世、三世、四世はもう立派なブラジル人なんだから、見かけに騙されちゃいけない(笑)
【小倉】日本の人に分かりやすいのは、青い目の白人青年がやまほど和太鼓を叩いていたり、金髪の娘がぞろぞろとコスプレしていることでしょうけど(笑)。
 和太鼓を叩いたり、踊ったり、歌ったりしているのがみんな日系人で、顔を見る限りは日本人みたい。日本と代わり映えがしない、という見方なんでしょうね。
 でも二世、三世というブラジル人がそれだけ日本文化をやってくれているということが凄い、ということを日本の人が見る方として分かるかどうか、ですよね。
【深沢】そうそう、日本の人には、ブラジル人のラムちゃん(漫画うる星やつら)がずらーっと並んでいるとかね。青い目のセーラームーンがガーッといるとか(笑)。そういう方が、彼らは面白いんだよね。
 逆に地元ブラジル人からすると、日本の文化をブラジルの地でここまで再現する、これだけの集団が団結しているということに感銘を受けるようだね。
 地球の反対側で、これだけの人数が「日本と同じこと」をやっていることの凄さを、一番分かってくれるのは皇族の方ではないかという気がするね。


雅子さま初ご来伯待望論

第55回海外日系人大会の歓迎交流会に出席された皇太子さま=14年10月、東京・永田町の憲政記念館(共同)

第55回海外日系人大会の歓迎交流会に出席された皇太子さま=14年10月、東京・永田町の憲政記念館(共同)

【深沢】だから、皇室の方に見ていただきたいよね。できることなら、2018年の移民110周年の時に、皇太子殿下と雅子妃にそろってきて頂けたら最高だよね。コロニアの皆さんも、心から待ちわびている。
【大澤】2018年にはもしかして、天皇陛下になられているかもしれませんね。
【深沢】皇太子殿下は2008年の移民百周年のときにご来伯されている。だけど今度はぜひご夫妻で、可能であれば愛子さまもご一緒に。ご家族みんなで来て頂ければ、ブラジル的には一番ありがたい気がするな。可能かどうかは、まったく知らないけど。
【大澤】元外交官の雅子さまなら、きっとブラジル日系社会の存在の深い意味をすぐに分かって下さる気がしますよね。
【深沢】日本の日本人と、外国人(ブラジル人)の〃中間〃という「民族的なグラデーション」がもつ意味。しかも200万人ちかい分厚い層になっている。
 かつて山田長政がタイに作った日本人町は数十年で滅びてしまったけど、ブラジルのコロニアは一世紀以上も存在し続けて、これだけの規模と存在感を見せるようになっている。
 グローバル化時代だからこその「日本史の新しいページ」がブラジルに開かれていることを、皇族の方は分かって下さっている気がする。
【國分】ほう、そうなんですか。日本にいたときはまったく想像できなかった世界ですね。
【深沢】日本の人は、ブラジル日系社会を「日本の飛び地」とか「日本史の番外地」という単純なイメージを持っている人が多い。かつてはそういう部分もあったとおもうけど、今はもう全然違うんだよね。
 世界的な議論になっている「移民労働者」――きわめて現代的な存在のさきがけなんだよね。グローバリゼーション以降の世界史の中からしか、日系社会の存在は理解できない。
 そんな「世界史的な日系社会の見方」が、外交官だった雅子さまなら現地を見て、すぐにピンとくる気がする。
【小倉】でも2018年には、エクアドルとアルゼンチンでも100周年とか110周年とかという外交記念行事があるんでしょ。
 ブラジルだけのためだけに皇族が来られるっていうのは難しいんじゃないかという話を聞きました。他と抱き合わせでくる日程になるかもしれない。そうすると結構ハードなスケジュールになるから、やはり若い方になるのかなあと。たとえば、眞子さまあたりとか。


眞子さま、佳子さま待望論も

太鼓隊の少年にお声掛けする秋篠宮ご夫妻(15年10月、ロンドリーナ)

太鼓隊の少年にお声掛けする秋篠宮ご夫妻(15年10月、ロンドリーナ)

【大澤】秋篠宮家の長女、眞子さまですね。そういえば、2016年に眞子さまがパラグアイの80周年式典にご出席されていましたが、10日間くらい滞在していらっしゃって、古い入植地を5か所も訪問されていたんです。
【深沢】そうなんだ! すごいね。
【大澤】なので、皇室の若い方に来ていただけたとすると、プロミッソンとかサンパウロ州の地方部にも足を運んでくださるんじゃないかと、期待がふくらみますね。次女の佳子さまも、もしかして…。
【深沢】本当だね。〃移民の父〃上塚周平がつくったあの移住地の雰囲気をね、「移民の現場」を感じていただけるとありがたいね。2018年はちょうどプロミッソン入植百周年だからね。
【小倉】できたら、隣の平野植民地にも。
【深沢】ああ、その通りだ。1915年8月の入植からの3カ月間でマラリアによって80人が死んだ悲劇の植民地。当時まだマラリアがどういう病気か知られていなかった中で、開拓に入った。日本人はやっぱりお米が食べたいから、川の近くに畑や家を作って、マラリアにやられた。当時はそういう病気の知識がなく、ばたばたと斃れていった。そういう歴史の現場を少しでも見て頂けるとありがたいね。
 ドイツ移民もイタリア移民も、みなそういう歴史を踏み越えてブラジルを建国して来た。
【小倉】式典の時には、プロミッソンにノロエステ地方全体から大勢の人に集まってもらいたいですね。
【深沢】今、戦前の一世といったら子供移民しか生き残っていない。もう90歳前後。その方たちが生きている間に、皇族にはぜひ地方に足を延ばしていただけると本当にありがたい。
 移民50周年(1958年)の時に三笠宮同妃両殿下が訪れて以来、サンパウロ州の奥地には皇族がご訪問されていないんだよね。今でも、地方に取材にいくとその時のことが話題にでるよね。高齢者は、みな心の底から切望している。
【小倉】全伯190万日系人のうちでパラナ州には1割しかいないけど、皇族の方が来られるたびに毎回3、4カ所も回られますもんね。

パラグアイの移民80周年式典で献花される眞子さま(Foto Claudio Kurita)

パラグアイの移民80周年式典で献花される眞子さま(Foto Claudio Kurita)

【深沢】ところが、肝心の全日系人の7割を占めるサンパウロ州はサンパウロ市のみという状態が、ずっと続いてきた。
 パラナ州にはアントニオ上野下院議員という非常に皇室に近い存在がいたのが大きい。それを西森ルイス下議がしっかりと継承している。
 でも、サンパウロ州には野村丈吾下議以来、そんな政治家がでていない。日本語で日本の政治家や皇室にしっかりとメッセージを伝えられるような人物を、サンパウロからも出さないといけない。現状では飯星ワルテル下議しか、その役割をできそうな人はいないんじゃないかな。
【大澤】戦前一世が皇族を崇拝する姿を、二世、三世、四世の子どもたちにも見てもらって、自分たちのルーツを感じてほしいですね。
【深沢】「皇室とはそういうものなんだ」ということを、肌身で感じてもらって日系人意識をもっと強めてほしいね。
 式典はプロミッソンでやって、できれば歓迎会のようなものをマリリアでできたらいいね。そっちにはパウリスタ線の若い人たちにたくさん集まってもらってね。90キロしか離れていないから。ロンドリーナとローランジャみたいなもの。


皇族と一緒にマツリダンス踊る?!

若いブラジル人を中心に人気のマツリダンス(16年11月、レジストロの灯籠流し)

若いブラジル人を中心に人気のマツリダンス(16年11月、レジストロの灯籠流し)

【大澤】皇族の方にはプロミッソンとマリリアで、若い人たちの「マツリダンス」を見ていただきたいですよね(笑)。
【深沢】國分さんは、マツリダンスを見たことある?
【國分】ありますよ。最初、よく分からなくてビックリしましたけど。

【深沢】まあ盆踊りの若者バージョンだよね。グルッポ三世が9月にやっている「ロンドリーナ祭り」に行った時は感動したね。日本の歌謡曲に合わせて、3千人とか4千人がいっぺんに同じ振付でぶわーっと踊ってるんだ。
 しかも、踊っているのはほとんどブラジル人の若者。日系人は舞台の上で演奏し、踊りの指導をしている。すごい光景だよね。こうやって日本文化が広がっていくのかと。感銘をうけたね。実に不思議な光景だった。
【小倉】ブラジル人は踊るの好きですからね。
【深沢】そうそう。ブラジルのコンサートでも、サルバドールのアシェーとかでも同じ事をやっている。曲に合わせて、会場全体が一緒に踊っている。あれの日本の歌謡曲バージョン。
 そのロンドリーナで「松本ボンボン」を生まれて初めて聞いた。
【國分】なんですか、それ。
【深沢】長野県の松本市で生まれた新しい盆踊りなんだって。それを長野県に派遣されたロンドリーナの県費留学生が、「これはいい」といってブラジルに持って帰った。それで、グルッポ三世で振付を作って、ブラジル人に躍らせている。
 この間、信濃毎日新聞の記者から電話があってその話をしたら、びっくりしてた。日系人がブラジル人と一緒になって日本文化を楽しんでいる姿を、皇族の方に見て頂きたいよね。
【大澤】もし眞子さまに来ていただけるなら、最近の歌謡曲を使ったマツリダンスを用意しておいて、式典までに地元の若者みんなに振付を覚えておいてもらって、眞子さまの前で披露できたらいいですね。
 もしも、万が一、お気に召したら「一緒にどうぞ」ということも考えておかないと(笑)
【深沢】おおっ、そうなったら感動的だね(笑)。
【國分】日本国内じゃ、ありえないですね。
【深沢】ダメ元でいいから、そういう夢みたいなことを目指してやっていくなかで、地方同士の横の絆を強めていくのが大事だよね。
 地方の日系団体を訪ねると分かるけど、もう10家族以下しかいないようなところが、けっこうある。若者が大学に進学して、そのままサンパウロ市とか都市部に残って就職し、年老いた両親をそこに呼び寄せて、どんどん地方団体がやせ細っている。ただでさえ、そんなところにデカセギブームが追い打ちをかけた。だから最盛期だった70年代の3分の1程度に、日系団体の実質数が減っている可能性があると思うよね。
【小倉】戦前移民の場合だと、二世で80代、90代の人が多いですよね。三世が60代、70代。四世、五世、六世がこれからを引っ張っていってもらわないといけない。
 ニッケイ新聞で出版している日ポ両語の『日本文化』シリーズは、そんな新しい世代に日本の歴史や文化の真髄を知ってもらうのに、一番良いですよね。もっと地方の方に読んでもらいですね。

長野県人会55周年式典で松本ぼんぼんを踊る会員ら(14年11月)

長野県人会55周年式典で松本ぼんぼんを踊る会員ら(14年11月)

【深沢】そうそう、あちこちで言っているんだけど、今、日本語学校に通っている8歳の子供が48歳のときに移民150周年を迎える。いま18歳なら58歳、いま28歳なら68歳で。つまり10代から20代の世代が、日系人意識をはっきりと持ってくれれば、移民150周年はきっと盛大に祝われる。
 その10代、20代に皇族の姿を見る機会を作るというのが、110周年の最大の目的じゃないかね。
【大澤】きっと、自分のルーツに誇りを持つようになりますよ。まして一緒に踊ってくれたら、最高!
【深沢】110周年というのは、そんな地方部の日系団体を再活性化させる機会になってくれたらいいなと思うよね。
 和太鼓や日本語弁論をそれまでに一生懸命に練習してもらい、大会で優秀者を選んで、式典や歓迎会で皇族にお見せする。それを目標に、1年半、切磋琢磨する。
 そんな大会開催や、式典や歓迎会の動員計画の準備を通して、地方同士の横の連携を深めていく。その連携が10年、20年先に残す最大の財産になっていくんじゃないか、と。
【小倉】僕的には、110周年を機に「絶対に東京五輪に行くぞ!」と思うような、日系選手にも育ってほしいですね。
【深沢】おっ、いいね。それ。日系選手が東京でメダルか。きっと何人かは出るんじゃないかな。新年号だし、明るい話で今回は終わりにしようか(笑)