今年5月オープンを控え、今月中の内外装の完成を目処に着々と工事が進む文化広報施設「ジャパン・ハウス(JH)」―。先月24日には表玄関を飾る「檜のファサード(建物の正面)」も完成し、片鱗を現しつつある。設計デザインを担当する隈研吾さん(62、神奈川県出身)は、その最終確認のため6日に来伯し、仕上がりに満足した様子を見せた。
「サンパウロ市のが最もインパクトのあるものになるはず」――ロンドン、ロサンゼルスに先駆け、最初にオープンを控えるサンパウロ市JHだが、隈さんはそう自信を滲ませた。2020年東京五輪の新国立競技場設計を担当するなど、日本を代表する建築家の一人だ。
30年前に初来聖し、世界を舞台に活躍するようになる中で、「いつか当地で仕事がしたいと考えていた。まるで夢のようだ」と完成を目前にした期待感を語る。
なかでも注目を引くのが、隈さんも「できあがりに満足している」と語る「檜のファサード」。釘や接着剤などを使わずに組み立てる伝統技法「地獄組み」を採用し、36層の木材が格子状に組上げられ、同館の表玄関を神々しく飾る。
構造強化のため、ファサード下部の支柱には、ブラジルのイペーの木を採用。「日伯両国の良いところを活かしあっていくような、そんな国家間の象徴になれば」との願いを込めたといい、「20世紀のような固い建築ではなく、建築でありながら森の持つ複雑さや柔らかさを表現したかった」と思いを明かした。
匠の伝統技術と現代的デザインの融合を試みたファサード。視察した隈氏は「町並みと調和していて、違和感がなく驚いた」と率直に語り、「寛容性があり、何でも取り込む力のある街。だからこそ、自然と馴染んでいる」と手応えを感じているようだ。
檜のファサードや竜安寺の白砂をイメージした「外土間」からなる外部空間と、一体をなすよう作られたというのが、和紙と金属の融合を目指した内装空間だ。
5月の開所式には「驚くような人が姿を現す」という声が聞かれ、「麻生太郎副総理(日伯議連会長)が出席する予定」との話もでてきた。
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隈研吾さんは、ニーマイヤーの建築など「内外が調和しているのがブラジル建築の特徴」と分析し、「JHは、まさにそのアイデアを発展させたもの。21世紀の建築は、内外が打ち解けた感じになることが必要だ」と語った。隈さんは「町並みと調和していて違和感がなく驚いた」というが、一般ブラジル人は凝った木造建築物など見たことがないから、あれを見たらやっぱり驚くだろう。それゆえに、むしろ「最もインパクトのあるものになる」という言葉の方に納得させられた。
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JHのファサードは、注目を引くデザインだけに、デモでよじ登ったり、落書きをされたりといったことを懸念する声も。ファサードに直接近づけないよう、建物前に門や柵が設置される。万が一、登ったとしても、沢山の部材でしっかりと組み込まれているので、一部が破壊されても問題はない構造になっているとか。さらに、木材には特別な塗装を施しているため、いたずら書きをされたとしても、汚れは落とせるようになっているそうだ。
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完成まであと一歩と迫ったJHだが、まだ物販販売を行う「ポップアップショップ」の工事なども残されている。そこでも、隈さんのデザインする細い木組みのデザインが採用され、「外と内が互いに共鳴し合うようなものにしたい」ととのこと。5月のオープニングで再来伯する予定で、7月15日からはJH内で隈さんの建築展覧会が検討されているとか。平田アンジェラ事務局長によれば、すでに檜のファサードの存在を知ったブラジル人からは、「どうやってこのような構造物を作ったのか」といった問合せが、中島工務店へ寄せられており、反響を呼んでいるとか。2020年東京五輪の新国立競技場のデザインも手掛ける同氏だけに、当地でも話題となりそうだ。