テメル政権は来年まで続きそうだ――年始は1年の政治の骨組みを作る時期であり、ムリヤリ一言でまとめるとそんな印象だ。その詰めの一手といえるのが、モラエス法相を最高裁に送り込む人事だ。これは将棋でいう「詰め」の感じがする▼最高裁は「閣僚特権」がある政治家の捜査を許可できる唯一の機関であり、有力政治家には最も怖い存在だ。だがカルメン・ルシア判事が最高裁長官になって以降、テメルの根回しがひんぱんに行われている雰囲気が強い。昨年末のレナン上院議長留任しかり、マイア下院議長が憲法で禁止されているはずの続投を認めた法律解釈しかり。モラエス法相の指名を好感する反応を出したことも▼そうであれば、ラヴァ・ジャット(LJ)作戦のオデブレヒト社幹部77人の司法取引証言がこれから出てきても、閣僚レベルには打撃を与えても、テメル本人に致命傷を与えるところまでいかない裏の取引ができている感じがする。来年末までの任期を全うするための「詰め」の工作をした印象だ▼そもそもマイア下院議長が再任した意味は大きい。マイア再任が意味するのは「クーニャの政治的な死」だ。クーニャ元下院議長が手塩にかけて育ててきた200余人もの超党派グループ「セントロン」が、テメルの裏工作で分裂し、現政権寄りのマイアに票が集まった。下院で連邦政府案を通すのは、以前ほど難しくないだろう▼くわえてテメルは、上院議長にもレナン後継者を据えた。今までと同じ上院運営を期待できる。さらに上院で最も権威のある憲政委員会のトップに、あのレナンとサルネイの意をくむロボンが就任したことも象徴的だ。モレイラ・フランコもそうだが、今までなりを潜めていたLJ容疑者側が、逆襲に出始めた雰囲気を感じる。最高裁レベルのLJ作戦では、期待されたような「閣僚数人、もしかしてテメルも、さらに50人以上の連邦議員が罷免」という事態にはならない可能性を感じる▼テメルが両院を掌握したことが2月第一週に起きたことだ。そして今週は、最高裁までその影響力を及ぼす「詰め」の一手が打たれた▼LJ作戦で今後問題とされるのは、現役閣僚や連邦議員レベルだ。標的であるはずの連邦政府の主要閣僚である「法相」が、司法の最高決定機関である最高裁に入るということは、「行政が司法に強い影響力を持つ」のと等しいと警告を発する専門家は多い。先進国と違って、ブラジルの場合は75歳まで最高裁判事を続けられる。モラエスはまだ49歳。今後26年間も「司法界最高権威」の地位をほしいままにする▼だいたい「法相」任命もテメル、最高裁判事に指名したのもテメルだ。そんな上司、恩人たるテメルを告発する側にモラエスが回るのは、少々信じがたい。あからさまではなくとも守る側に回るし、最高裁判事同僚もそのような行動を暗黙の了解として共有するだろう▼モラエスがPSDBという点も大きい。昨年のジャデル疑惑でテメル政権が大揺れに揺れた時に、PSDBがしっかりと支持してくれた。あの時に次の政権は彼らに渡すとの密約ができ、それに沿ってすべてが動いている感じがする。今回もその一環だろう▼テメルの一番の身内は守られる―そんな密約がこの1月に結ばれた感じがする。とはいえ、テメルのことだから、国民が納得するように何人かの「犠牲の羊」を差し出すに違いない。クーニャは今週のLJ証言でモーロ判事に、テメルとの会議がいかに頻繁であったかを強調し、自分の件を最高裁での扱いに替えようと試みた。まるで「最高裁案件になれば、もっと意のままになる」と考えているかのようだ。クーニャは「身内」か「羊」か▼クーニャが「脳動脈瘤があるから刑務所から自宅軟禁に切り替えてくれ」と懇願したのに対して、バンデイランテス局の看板ジャーナリストのボイシャーは、「クーニャはたしかに頭の病気だが、少なくとも脳動脈瘤ではない」と皮肉ったのを聞き、笑ってしまった。国民の気持ちをよく代弁している。(深)