独立行政法人国際協力機構(JICA)から北岡伸一理事長一行が来伯し、8日午後、サンパウロ市内ホテルで在伯報道関係者との懇親会が行われた。15年10月に同機構理事長に就任して以来、初来伯だ。7日から13日にかけて各地を視察して回った。今訪問では、ブラジルの経済政策の戦略と基本方針について理解を深めるとともに、日系社会を中心とする協力現場を視察した。
北岡氏は日本政治外交史などを専門とし、東京大学名誉教授から、04年に外務省に出向。政府国連代表部次席代表を2年務め、国際大学長を歴任し、JICA理事長に就任した。
これまでのブラジルと関りについて、「国連改革では、ブラジル外交官と協力した」と回想し、「ブラジル経済は不調だが、G20の一員であり重要なパートナー。今度どのような協力をしてゆくべきかよく考えたい」と語った。
また、ブラジルへの開発援助について、10年に円借款の卒業基準を超え、技術協力が中心となるなか、「相対的に援助の必要性が少ない国になった」と見ている。「支援の中心は日系社会。日本に関心を持つブラジル人も巻込んでゆければ」と意気込みを語る。
日系社会には、大変関心を持っているという北岡理事長。「当初は移住者支援だったが、いまでは支援というよりは対等な立場にある」との変化を指摘し、那須隆一ブラジル事務所長も「進出企業の足がかりとなるよう支援してゆくことで、日系社会の活躍の場を広げられる」とした。
14年に安倍首相が来伯して日系社会への積極的支援が確認され、日系社会ボランティアは約60人から100人体制まで強化されつつある。那須事務所長は、「20年東京五輪へ向けての施策と合わせ、スポーツ分野が強化されるなど、他のニーズにも対応してきている」と強調する。
政府予算が逼迫するなか、同機構は二年連続で予算増となっているという。北岡理事長は「チャリティー(慈善的な支援)ではなく、その国にとって本当に意味のある支援をやっていくつもりだ」と使命感を語る。
「19世紀の欧米支配から脱却し、唯一先進国となったのは日本だけ。さらに、開発援助で最も成功したのは日本だ」と強調し、「そういったノウハウを学んでもらうためにも、もっと日本へ人を呼び込むように留学事業を発達させたい。根っこにあるのは人創りだ」と開発援助への熱い思いを語った。
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JICAの北岡伸一理事長が「より進んだパートナー」と位置づけるブラジル。これまでJICAによる支援事業で成功を収めてきたセラード農業開発や交番防災プロジェクトなどの成果を、日伯両国が協力して他の中南米諸国やアフリカなどの第三国で展開してゆく「三ヵ国協力による開発援助」が次世代の援助の形と目されている。だが、汚職捜査に絡む政治経済の低迷のなかで、ブラジルが経費の負担をすることが難しくなっており、関係団体の役人がすぐに配置替えになるなど、進めていく上での苦労も感じているよう。
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米国でトランプ政権が誕生したことによって、国際協力の分野でどのような影響がもたらされるかとの記者団からの質問に、北岡理事長は「不安を感じている」と懸念を示した。新大統領は「一度も国際協調という言葉を使っておらず、どういう支援の考えを持っているか分からない」とか。JICA事業への影響については、「例えば、北米自由協定を見据え、メキシコには進出企業のための足掛かりとなるような支援をしてきた。その部分に影響が及ぶことが想定される」という。でも今のところブラジルへの影響は限定的なようだ。