【生命線は股関節】
先日、「腰痛」をテーマにした健康バラエティ番組に出演しました。スタジオのモニターにVTRが流れ、数人の整形外科たちが次々と登場してインタビューに答えていました。各々が「85%の腰痛は原因がわかっていません」と、お手上げ的な表情でコメントしていました。
「原因が分からないのは画像検査の結果だけ見て、姿勢分析や下半身の機能テスト、触診をしていないからだろう」と発言したい気持ちをグッと堪えていました。
私の他に2名の整形外科医が隣にいましたが、彼ら自身が腰痛を経験したことがないので、腰痛の問題を本質から捉えられているとは感じませんでした。
骨盤や背骨は、宙に浮いているわけではなく、2つの脚の上に載っているため、脚の機能の影響を多分に受けています。なかでも、足関節と股関節の機能がとても重要で、ここが正常に動かないと確実に膝と腰への負担が増大します。
股関節の構造は、大たい骨の先端にある「ボール」(大たい骨頭)が、かん骨の「ソケット」(かんこつ臼)にハマるかたちになっています。大たい骨のボールを軸として骨盤が前後に回転したり、左右に回転したりことにより、しゃがんだり屈んだり、体を捻ったりできるのです。
しかし、歳をとるにつれて股関節に付着している筋肉や靱帯、関節包が癒着や硬化して、本来の機能を果たせなくなってしまうため、膝や腰にかかる負担が増大します。これが蓄積疲労となって、膝痛や腰痛を起こす原因になるのです。
つまり、股関節に付着するお尻と太ももの筋肉を、いかにして柔らかく可動性を保つかが、腰痛持ちにとっての生命線となるのです。
【どこをほぐせば良いのか】
変形した椎間板や関節を元どおりに整復することは、容易ではありません。では、椎間板ヘルニアや脊柱管狭さく症と診断されてしまったら、一生腰痛に苦しまなければいけないのでしょうか。そんな事はありません。
足首と股関節の筋肉が短縮・硬化しないように、「ポイント」になる部分のセルフケアをしていれば、腰痛が再発するリスクは極めて小さくなります。
そのポイントとは、尻と膝裏、すねとふくらはぎの外側です。これらの部位は、腰から足先まで繋がっている太い神経の通り道でもあります。
解剖実習のときに、検体の脚の神経を殿部から足先まで見られるように解剖していくと、太い神経が太ももやふくらはぎの筋膜にベッタリと癒着しているのが分かりました。そして、つま先を手前に返すと、坐骨神経が下方に引っ張られる様子もハッキリと目視できました。
要するに、太ももやふくらはぎの筋肉の硬さと長さが、腰部の神経にまで影響を及ぼすということです。もともとヘルニアや関節の変形によって、神経が圧迫されやすくなっている人は、健常者よりも神経症状が出るリスクが圧倒的に高いと言えます。
これまで、坐骨神経痛など下肢に広がる痛みや痺れは、腰部のヘルニアの治療をしなければ改善できないと考えられてきました。しかしながら、下半身の筋肉をマッサージやストレッチをして柔らかく保つことによって、神経を引っ張るストレスを和らげて、腰痛の再発を回避することができるのです。
私自身、昨年末からテニスボールやローラーを使って、お尻、太ももの外側、ふくらはぎ、スネを3日に1度のペースでほぐしていますが、あの違和感は全く出ていません。
次回が最終回となりますが、お勧めのケアグッズを使って、腰痛の発症を予防・改善する方法を詳しくご紹介したいと思います。
【プロフィール】
伊藤和磨(いとうかずま)1976年7月11日生まれ 東京都出身
メ ディカルトレーナー。米国C.H.E.K institute 公認practitioner。2002年に「腰痛改善スタジオMaro’s」を開業。『腰痛はアタマで治す』(集英社)、『アゴを引けば体が変わる』 (光文社)など14冊を出版している。「生涯、腰痛にならない姿勢と体の使い方」を企業や学校などで講演している。