ホーム | 連載 | 2016年 | JICA=日系社会ボランティア30周年=リレーエッセイでたどる絆 | JICA=日系社会ボランティア30周年=リレーエッセイでたどる絆=第16回=どんどん広がるあいさつ運動の輪

JICA=日系社会ボランティア30周年=リレーエッセイでたどる絆=第16回=どんどん広がるあいさつ運動の輪

 私にとってブラジルは遠くて近い場所だった。祖母が小さいころ、昔語りで、たくさんの人が大きな船に乗って働きにいって苦労した話、祖母の友人がブラジルへ行ってずっと長い間会えていない話などを聞かせてくれていた。
 地元にもたくさんのブラジルの人たちが住んでいた。好きなダンスを通してブラジル人の友達も1人いる。でもまさか自分がブラジルの地を踏むなんてその時は思ってもいなかった。
 正規教員になって4年目のとき、滋賀県の水戸小学校という関西一外国籍児童が多い小学校に転勤になった。生まれも育ちも滋賀だが馴染みの無い土地で、冬は雪深い実家から通うには遠く、一人暮らしもスタートさせた。
 土地勘も無い場所でゼロからのスタートは楽しくもあり大変なこともあった。児童たちは、日本人外国人関係なく明るくて元気で可愛かった。
 けれど外国籍児童の子どもたちとは言葉の壁や彼らの文化を理解できていないことで、彼らに寄り添えていない自分がもどかしかった。
 そんな時、日系社会青年ボランティアのことを知った。行こうか行くまいかと悶々と過ごす日々の中、背中を押してくれたのは、ブラジル人の保護者との出会いだった。
 寒い日に家庭訪問をした日は「温まっていって」と温かい夕食をごちそうしてくれた。疲れていた自分にはそのおもてなしがすごく心に染みた。この家族や誰かに直接恩返しができないかもしれないけれど、きっと誰かにその優しさの恩返しがしたいと思った。
 試験に合格した時すごくうれしかった。その保護者はとても喜んでくれた。ブラジル人の友人はとても心配してくれて、困ったら私の家族を頼ってと紹介してくれた。
 配属先はキリスト教の理念に基づいた学校で、日本と180度違う世界の中にどっぷりとつかり、色々勉強になっている。日本で生活した経験のある日本語教師の沙織先生が私の感じるギャップをひとつひとつ教えてくださったり、実現したい活動の手助けをしてくださったり、困っているときに助けてくださったりした。
 生徒たちは私の提案にいつもついてきてくれて、一生懸命頑張ってくれている。提案してみた「あいさつ運動」は早朝にもかかわらず、毎月第一金曜日にみんな文句もいわず早く登校して校門に立ち、元気よくあいさつをしてくれている。保護者にも好評で、そのおかげで定着した活動になった。
 山田康夫会長をはじめ、滋賀県人会の方々に会ったときには、まるでお盆やお正月の親戚の集まり。もう何年もすごしている親戚のようで、本当に家族同然によくしてもらっている。
 ボランティアとして派遣されたが、私が伝えることよりも学ぶことの方が多いと感じている。いつも周りの誰かに助けてもらってばかりで、ここまで来ることができたのは周りの人や子どもたちのおかげである。
 残りの任期で少しでも恩返しできるような充実した活動を行いたい。また帰国後、日本にいる沢山の外国籍児童の支援に携われるように努力したいと思っている。友人は、あの保護者は、会った時、どんな顔をして迎えてくれるだろうか。

西堀 恵子(にしぼり・けいこ)

【略歴】滋賀県出身。33歳。小学校教員として勤務する中でブラジルを主とした外国籍児童やその保護者と触れ合い、ブラジルのことを知りたいと日系社会青年ボランティア(小学校教育)に応募。2015年6月に赴任、17年3月まで。サンパウロ市のミラソウ学園で活動中。