サンパウロ州立総合大学(USP)法学部は6日、東京大学名誉教授、社会保障・人口問題研究所所長の森田朗氏を招いて講演会『日本の人口動態と社会保障~少子高齢化・人口減少時代における政策と法』を行った。約100人が来場し、少子高齢化が起きる原因とその対処を学んだ。
森田所長によれば「少子高齢化は日本特有の問題ではなく、どの国においても、社会が成熟すると起こってしまう現象」だという。
未成熟の国(途上国)では、病気などで多くの人が死ぬが、国民はそれを補う為に多くの子供を産む。こうした社会を「多死多産社会」と言い、子供は多く生まれても、徐々に死んでいくので、人口ピラミッドは富士山型をしている。
多死多産社会が成熟し、死亡率が下がり始めると、多産された子供たちが減少することなく成長し、多くの労働力を国にもたらすようになる。
この時、国には多死社会の名残から高齢者が少ないので、国は豊富な労働力から得た富を、高齢者福祉ではなく、成長分野に投資する事が出来る。人口ピラミッドは釣り鐘型になる。
そして、「少死社会」になると多産の必要性も無くなり、「少産社会」へと移行する。子供へかける社会福祉の総額も縮小し、その分の富を他分野へ投入することができ、発展が加速する。人口ピラミッドの形はつぼ型だ。
つぼ型の時は子供と老人が少なく、働ける人が多い。この時代を「人口ボーナス期」と呼ぶ。森田所長は、「この人口ボーナス期はどの国にも一度だけ訪れ、高度の経済成長を可能にする」と論じた。日本の場合、1960年代から1990年代初頭までが人口ボーナス期にあたり、この間に急速な工業化と高度経済成長を成し遂げた。
しかし、この働いていた世代が高齢化すると、国家予算における社会保障比率が増大し、他分野への投資が減少する。経済成長の鈍化が避けられないばかりか、あらゆる社会機構の見直しが必要となる。
更に時が進み、この世代が死に始めると「多死少産社会」となり、急激な人口減少を迎えることになる。現在の日本だ。
森田所長のグラフでは1872年に3481万人だった日本の人口が、2010年までの138年間に、約3・6倍の1億2806万人にまで急増し、2060年に8674万人、2100年に4959万人へと減少していくと示されている。
日本は現在、年間30万人のペースで人口減少が進んでいるが、徐々にその速度は増し、2030年には毎年100万人ずつ減少する予想だ。
現代日本の社会構造は1億2千万人が営みを続けていくことを念頭に作られているので、急激な人口減少が起きると、産業機構や社会保障が機能不全になってしまうと懸念されており、内政の最重要課題として対策を必要としている。
人口減少のペースが速まる中で、日本が取り得る手段は多くない。(つづく)