国によっては人口の24%、ブラジルの場合は少なくとも2800万人が耳鳴りに悩んでいる。蜂の羽音のようだ、セミの鳴き声のようだ、はたまた、圧力鍋の蒸気が漏れる音のようだなど、耳鳴りの表現の仕方は様々だが、サンパウロ大学サンカルロス校の研究班が、耳鳴りを感じるのは脳の前頭前野(前頭前皮質)右側である事を発見した▼前頭前野は複雑な認知行動や人格発現、適切な社会行動の調節などに関わり、個性とも密接に関係する。音の判別に関していえば、脳に入ってきた音を聞き取る領域は他にあるが、様々な音を選び、聞き分ける機能はこの部分の右側と関係が深いという▼この話を聞き、補聴器利用者向けのオリエンテーションの中に、脳の訓練という言葉があったのを思い出した。補聴器を使う人に使い勝手などを説明するのは当然だ。補聴器利用者には、不要な音も聞こえるとか、道を歩いていても、車が遠くにいるのか近くにいるのかがわからないなどといった悩みを持つ人が多い。他方、聴力検査や各人にあう補聴器を準備するための調整を行う医師が、脳が受け取った音の情報を取捨選択する訓練をしなければならないと説明するのも聞いた▼人は、自分に必要な音や心地の良い音を選んで聞いている。周りに別の音があっても、会話などが聞き取れるのはこの能力故だ。だが、前頭前野が機能しなければ、音の選択が困難になり、外出したり、人と会ったりするのが億劫になる可能性もある。耳鳴りは睡眠障害や集中力低下、感情が不安定になるといった問題も引き起こし、聴力喪失や他の病気と関係している事も多い。今回の発見が治療法の確立などに役立つ事を望みたい。(み)