岡谷さんは「僕がきた8年前は、ほとんどトラックが走っていなかった。でも今は2台つながったトレーラーがバンバン走り始めた。大豆、牛が大きく成長してきた。急激に経済が拡大しているのを実感するよ」と感心したようにいう。
「ここから5キロほど行ったところにペトロブラスの給油ポイントがあって、その横にノルテ・スル鉄道が将来的に走っている。穀物を乗せた鉄道の貨車がバンバン走って太平洋に出しているんだ」という。
調べてみると、この「ノルテ・スル鉄道」(北南鉄道、Ferrovia Norte-Sul)は2015年12月にゴイアス州アナポリスから出発して、トカンチンス州を通ってマラニョン州のイタキ港へと開通し、最初の貨車を送り出した。5100トンの大豆を60両の貨車に積んで、2300キロを4日間で運んでいる。
まさにブラジルの心臓部から太平洋につながる交通路が拓けた。ルーラ=ジウマ政権の最大に成果の一つだろう。
岡谷さんは「今はただのセラードになっているこの辺を開発して、3800万へクタールの農地にするマトピバ計画というのがあるんだ」と言われて、アッと思い出した。
「マトピバ(MA―TO―PI―BA)地域」とは、マラニョン州(MA)南部、トカンチンス州(TO)東部、ピアウイ州(PI)南部、バイア州(BA)西部の4地区からなる新興農業開発地域のことだ。
70年代に日本政府が協力してセラード開発を成功させたことを踏まえて、ブラジル農務省がこの地域の開発への支援を求めているという話は聞いていた。まさに、そのど真ん中にあるのがパウマスだ。
4月5日にリオで行われた「第7回日伯戦略的経済パートナーシップ賢人会議」の議題にも登り、テメル大統領に提出した提言文にも《マトピバ地域の穀物輸送回廊プロジェクトの優先案件としての首尾一貫した推進》と入っている。
まさに、その現場だ。
トカンチンス日伯文化協会の中村ネルソン和雄会長によれば、市内には120~150家族の日系人が在住するが、会員になっているのは46家族だという。「会員にはなっていなくてもイベントの時とかはもっと手伝ってくれる」。
交流会の開会あいさつで中村会長は、「ここには日本移民はほとんど入らなかった。その代わり、僕らのようなパラナやサンパウロ州からの国内移住組が集まっている。一番古い人は1989年からきている」と語った。
中村会長はサンパウロ州リンス市出身とのこと。普段は遠い彼方と思っていたトカンチンス州との精神的な距離感が一気に縮まった瞬間だった。(つづく、深沢正雪記者)
□関連コラム□大耳小耳
故郷巡り一行が訪れた「マトピバ地域」。これに関して、ブラジル日本商工会議所サイト「デイリー経済情報」によれば《降雨が少なく土地が痩せて大量の化学肥料の投下が必要なセラード地域では、今後の穀物栽培向け開発が期待できない。農業コンサルタント企業Agroicone社では、マトピバ地域への投資からマット・グロッソ州並びに南マット・グロッソ州、ゴイアス州、ミナス州、サンパウロ州内の地価の安い耕作地への投資を推奨している。現在のセラードのマトピバ地域の耕作地は、(中略)過去数年間で640万ヘクタールの穀物栽培地域が放牧地に転換されている(2016年11月21日付けヴァロール紙)》との情報も。ここも「濡れ手に粟」ではない。