「移住の延長線ではなく、日系人・日系社会を主題に」―。「中南米日系社会との連携に関する有識者懇親会」(堀坂浩太郎座長)は9日、今後の政策の基本指針となる報告書を、薗浦健太郎外務副大臣に提出した。日系人一人を含む7人の有識者が4回の会合を開いてまとめたもの。世代を跨いだ日系社会の発展と、日系社会との「協力」から「連携」へと重点を移した提言を打ち出している。
14年に安倍首相が対中南米外交の三つの理念を提唱し、それを踏まえて岸田文雄外務大臣の下に設置された同懇談会。中南米日系社会に対する政策の基礎方針となってきた00年の海外移住審議会意見から、実に17年振りとなった。日系社会との連携の取り組みを進める上で極めて重要な時期との認識に立ち、この報告書に則って今後の具体的な政策が議論される見通しだ。
世代交代が進み、様々な分野で影響力を持つ日系人が活躍する一方、日系活動に加わる非日系人が増加して「外縁」が拡大する変容期にあるなか「日系社会の状況を把握しつつ、日本側の対応を適切に更新してゆくことが重要だ」と訴えた。
提言された三つの柱の一つが「世代を跨いだ発展に資する施策」だ。世代交代が進むなか、日本との連携強化による持続的発展を訴えた。訪日機会の増大等を通じ、「若い世代の日系人意識の喚起」が重要とされた。
14年以降、日系人向けの招聘・研修、留学プログラムが52%増となるなど連携強化が図られてきたが、より一層、それらの事業や県費留学や研修制度、JICA次世代育成事業などの拡充を各界で強化してゆく見込みだ。
第二の柱は「オールジャパンの連携のための施策」だ。政府機関や地方公共団体、経済界や学会など様々な主体が多層的な関係を織り成し、日系社会と連携を深めていくことを期待したもの。対象には移住者の子孫だけでなく、その周辺の非日系知日派や親日派、当地に深く根をはる日本人定住者やその子孫などの「新日系人」も視野に入れるとした。
具体的には、集客力ある行事にクール・ジャパン関連行事を併催するなどを掲げ、15年より県連日本祭りで政府が設置してきた日本館の充実も期待できそうだ。
JICAによる連携策では、ボランティア事業に日系人が参加しやすい制度や、日本国籍をもたなくとも定住資格を持つ日系人でも参加できる制度にすべきとし、両国の掛け橋となる高度人材として育成してゆくことも提言された。
今月開館した「ジャパン・ハウス」との連携による文化発信も重要とし、継承日本語に加え外国語としての日本語ニーズの高まりを受けるなか、強化策として西語やポ語による出版促進も検討すべきとした。
最後に「在日日系社会に関する施策」として、在日日系人の高度人材としての育成支援を掲げた。四世以降の在留資格について特別な施策を検討すべきとし、「日本全国でしっかりした対応が必要」との声もあがった。
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外務省の「中南米日系社会との連携に関する有識者懇親会」の提言にあるとおり、当地の日系人を国際人材に育成できれば、両国の掛け橋となるだけでなく、世界を舞台に活躍できる人材になれる。とくに語学の習得や異文化理解の面では大きな差がありそう。最終的に日本にとって有益な人材に育てば国籍は二の次でいいはず。なお座長は、堀坂浩太郎上智大学名誉教授、山田啓二海外日系人協会会長(全国知事会会長、京都府知事)、飯島彰己三井物産会長、北岡伸一JICA理事長、柳田利夫慶應大教授、浅香幸枝南山大学准教授、ウラノ・エジソン・ヨシアキ筑波大学人文社会系准教授というメンバー。
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有識者懇談会の報告書では、日本国内の関心と理解を高めることが重要として、南米各地の移民史料館との連携強化や、教科書等の教育現場で取上げることも有用との提案があった。日本の歴史教科書に移民の記述があるのは、耳子の記憶では「国策の移民事業で中南米へ日本人が渡った」という事実と「その子弟がデカセギとして還流している」ぐらい。つまり日本を出た時と戻った時のみ。ブラジルでどう苦労を重ね、今日の信頼を得るまでに至ったのかという部分はすっぽりと抜けている。本来そこの部分の体験こそが、日本の日本人が国際化する上で一番大事なところでは?