テメル政権の不安定化は、楽観化しつつあった国民の期待感に激しい動揺を及ぼしています。今年5月にFGV(ゼッツリオ・ヴァルガス財団)によって算出された消費者信頼感指標は、この衝撃的な状況にまだ影響されず、上昇傾向を維持しています。悲観的な指数が現れるのは、6月からと推測されます。
▼どうなるマーケット
今年と来年度のGDP推定値は大きくは変化せず、それぞれ0・5%および2・5%と予測されています。
また、為替についても12月にR$3・23/US$と予測され、以前と変化はあまり見られません。主要経済指標は底堅く、一定の水準を維持しています。
ここで重要な点は、外国投資の赤字幅の縮少です。現在の赤字は、2014年のGDPが4・2%だったピーク時から、今年4月には僅か1・06%となり、これは長期資本の投資によって維持されています。
実際には、政治的混乱及びカントリーリスクの変化の影響を受け、外国からの直接投資は85億USドル程度となっています。その結果、外貨準備高は高水準を維持しています。
衝撃を受けて、為替市場が過度なレアル安にならないよう、中央銀行が介入しました。危機の深刻さを物語るものです。
▼好調な金利低下
インフレ率の急下落は、政治的衝撃の影響を緩和する歓迎すべき要因です。5月のIPCA―15は4%未満に留まっています。今年及び来年もしっかりとターゲットレートの範囲内に留まることが予測されます。
7月中には、おそらくSELIC(基本金利)10・0ポイント範囲内になるでしょう。そのため、中央銀行の操作枠は高く、金融緩和の継続が可能と想定されます。
低金利は、政治的危機の影響を緩和することができ、重要なストレス緩和の要因となります。
実際、民間銀行によるクレジット供給は成長を見せ、さまざまな部門への恩恵をもたらしながら集中的な資金調達の展開が再開したようです。
▼危ういバランス
その反面、国内の政治調整が不完全なまま続いています。現政権の議会支持基盤の弱体化は、労働法や年金制度の改革を妨げています。
税制改革が継続できないという脅威は、格付機関によってブラジルのさらなる格下げの可能性を高め、総債務/GDP比率拡大の軌道を加速する可能性があります。
改革の遅れによって影響がでる分野としては、特にインフラ部門の投資判断の延期などが挙げられるでしょう。遅れのシナリオに基づいて将来展望すれば、成長軌道が回復するのは、来年、または最悪の場合には2019年の選挙後まで延期になるかもしれません。
今一番起きてほしくないのは、税制改正の一貫性の欠如、および政治危機による年金改革の停止でしょう。
最悪のシナリオは、政治的な混乱が長引いて経済が停滞・悪化し、今までに出てきたせっかくの回復傾向をむだにする可能性があります。つまり、政治危機が長引けば、不況の再来をもたらす可能性があります。
(問い合わせ先: carolina.sakama@pwc.com , nobuyuki.yahagi@pwc.com)※この記事は、ブラジルにおける法令等の改正動向等をお知らせするため発行されたものであり、一般情報の提供を主たる目的としていますので、個別ケースに対する専門的アドバイスとして、ご利用頂けない場合がございますのであらかじめご了承下さい。