JICAシニアボランティアとして3回も派遣され、和太鼓指導にあたってきた蓑輪敏泰さん(69、宮崎県)が6月27日に任期を終え帰国する。10年以上に渡って各地のチームに訪れ続け、和太鼓の普及、レベル向上に尽力した。いわば「和太鼓の父」的な存在だ。蓑輪さんは「まだ課題は残る」とし、7月に再来伯することを決めている。これまでの活動、当地の太鼓に対する熱い思いを聞いた。
蓑輪さんは今回の派遣で特にミリン(11歳以下)の育成を重視した。「3年前、ミリンのチームは3つだったが、今は10チームほどに。チーム内の人数も増えた」とし、「どのチームも日本大会に出場するジュニア(12歳から18歳)に力を入れて指導しているが、ミリンを育てなければ当地の太鼓は強くならない」と強調する。
3回の派遣の中で最も思い出深いのは、08年の移民百周年記念事業「千人太鼓」だ。前年から準備に取り掛かり、プロ太鼓奏者である娘の真弥さんも来伯して指導した。「皇太子殿下が身を乗り出してご覧になっていたと聞いて嬉しかった」と振り返る。
当地の太鼓については「チーム間の実力差が顕著になっている。上位のチームはぐんぐん力を伸ばしているが、下位チームは存続すら危ぶまれている」と話す。
せっかく指導しても数年後になくなってしまうことも。「まずはチームを継続することが大切。そのためにはリーダーがしっかりしていないと。例えばリーダーを二人にして、一人抜けても教えたことがちゃんと残るような体制が必要」と課題を分析した。
7月30日の全伯太鼓大会に合わせて、開催10日前に再度来伯を予定する熱の入れようだ。大会の後は、11月末まで各地を訪問指導し、来年以降も継続的に来伯するという。今後はJICAボランティアではないため、渡航費も生活費も全て自費負担になる。
それでも活動を続けるのは、「ブラジルではサンバのようなアップテンポの曲が好まれるから、和太鼓の演奏も速くなりがち。せっかく定着し始めた『間』を重視する本来の和太鼓を途絶えさせるわけにはいかない」と表情を引き締めた。
毎年日本で開催されるジュニアの全国コンクールで、ブラジル代表は過去4年間で3度5位以上に入賞した。特に16年にはコロニア・ピニャールの「飛翔太鼓」は、なんと3位となり、日本の関係者を驚かせた。「ブラジルの太鼓は日本に通用することを示せた。元気なうちは続けたい」と笑顔がこぼれた。
□関連コラム□大耳小耳
蓑輪さんは多様な和太鼓・和楽器を当地に持ち込む役目も担った。「腰から下げて叩く腰鼓や締獅子太鼓は、私が持ち込むまで無かった。和楽器もほら貝は移民船の汽笛、神楽鈴は星空など、曲のイメージ作りに欠かせない」と話す。7月以降、蓑輪さんは団体に所属せずに活動するため、指導を要請したいチームは蓑輪さんに直接連絡をして欲しいとのこと。連絡は(電話=(11)95555―5198、メール=brakiti.taiko.minowa@gmail.com)まで。