製造業向けに業務請負や人材派遣などを行う株式会社アバンセコーポレーション(以下アバンセ、本社=愛知県一宮市)の林隆春社長(67、岐阜県)が来社した折、最近のデカセギ事情について聞いた。
林さんは1985年のプラザ合意後、ブラジル人労働者の派遣をはじめ、「今までに延べ約6万人を受け入れた」という業界大手だ。
現在、車部品製造の求人が増えていることを挙げ、「2年ほど前からブラジル経済が急激に悪化し、日本はアベノミクスと団塊世代の大量退職により人手不足になった。為替要因も加わり、デカセギ希望者が増加した」と在日ブラジル人増加の背景を説明した。
デカセギの日本語能力については、「初来日の人は基本的に日語能力が低い。特にその子どものほとんど無い。弊社では教育委員と一緒にNPOを作り、そのような子供向けの日曜学校運営なども行っている。小学校低学年なら適応も早いが、中学に入る年頃で来日した人は日本語が身につく前に高校進学の年齢となり、学校側もサポートに苦慮している」とした。
その親に関しては「単純労働をする大多数は日語を必要としておらず、日語能力については二層化が進んでいる」とのこと。08年のリーマンショック時、帰伯者が相相次ぎ、コミュニティーのリーダー人材まで帰ってしまった。「リーダーがいなくなり、現在のコミュニティーは壊滅的」と語った。
工場で働く日系人は間接雇用、単純労働が多く、職業能力が育たない。最近激増中の技能実習生(ベトナム人など)は制度的に職場を変えられないため、ブラジル人が『流動層』として企業から便利に使われている一面があるようだ。
さらに最近、ブラジル人が長距離トラックの運転手などの職に就く例もあるが、多くは産業IT化で10年後になくなる職業だと見られており、日本人の若者がやりたがらない職種のようだ。
林さんは「『日語教育+職業能力育成訓練』という制度があれば、日本人オーナーや工場長の下で、日系人責任者という形で部品加工の2~3次下請けとして、日本の物作りを支えることも可能になる。高齢化が進む日本の中小企業の後継者にもなるかもしれない。こうした未来を見据えた制度が必要」と意見を述べた。
また、デカセギの生活環境や労働環境について「いまだにデカセギの社会保険加入率が20%の地域があり、3次下請けレベルの工場の雇用環境の悪さは目に余るものがある」と明かした。
アバンセでは島根県出雲市でのデカセギ受け入れ態勢を整えており、「田舎の空き家を廉価で借り、3世代同居も可能な移住に近い生き方を検討している」と語った。「市や商工会議所の皆さんと話し合い、特に教育といじめ問題には気を配っている」と増加する定住志向のデカセギへの対応について話した。
林さんは、「在日日系人の中には、日本でもブラジルでも外国人扱いされ、苦しんでいる人がいる。『日本育ちで日本しか知らないから日本在留を望む人も増えている』と語った。
四世ビザ解禁については「人材ビジネス業者として回答は避ける」とした上で、「日本語が話せず、社会に対応できない三世が日本に残る反面、日本で育った四世はポ語が話せず、日本にしか対応できそうにないのに、ビザの問題が不安定な現状がある。そんな現行のルールに違和感があるのは、私だけではないと思う」と答えた。(つづく、國分雪月記者)