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《ブラジル》保身で力を使い尽くし、使命から遠ざかるテメル大統領

テメル大統領(Foto: Beto Barata/PR)

テメル大統領(Foto: Beto Barata/PR)

 テメル大統領告発を最高裁に送って審理継続させるかを決める投票が2日、下院本会議で行なわれ、お蔵入りに決まった。
 誰も驚かない。
 この結果を得るために、テメルは短期間に下議に約20億レアルの公費を大盤振る舞いし、役職をばら撒いて抱き込んでいたからだ。
 この大金は重要な政策に投資されたワケではなく、各下議が地元にばらまく議員割り当て金になっただけだ。
 日系議員でたとえれば、なんとか日本祭りとか、どこそこ日本公園建設費用として連邦政府に計上されていた予算だ。通常なら政策費用が余ったときか、政権が議員票を欲しいときにしか放出されない。今回は告発取り下げを実現するために大放出した。
 これは合法だ。でも国民としては、我々の血税を議員票のとりまとめの〃賄賂〃に使われた気分だ。
 Vox Populi世論調査では、国民のなんと93%が告発の最高裁送りを支持した。皮肉なことに、その国民の税金で自分の地位を守った…。
 テメルは選挙で選ばれていない大統領であり、来年も立候補しないと公言している。国民の支持率を気にする必要がない稀な大統領だ。だから支持率がほぼ史上最低の5%でも、平気でこんなことができる。
 本来なら、爪に火をともすような節約政権であるべきなのに、大盤振る舞いをするから財政状態も悪化し、赤字目標達成も難しくなる。
 2日の投票結果は、テメル告発の審理継続派は227票、告発お蔵入り派は263票。
 だが、投票直前のエスタード紙(E紙)調査では全513下議中、告発の審議継続に「賛成」と応えたのは190下議だけ。当日、その意思を明らかにしたのが37人だった。
 「告発お蔵入り」は事前には110票だったが、当日は153票も明らかになった。
 つまり、告発賛成者は事前にほぼ態度をはっきりさせていたが、告発お蔵入り派は、事前に態度を明らかにしたくないものが多かった。
 なぜか?
 E紙の事前調査で態度を保留した下議は200人余り。ある政治解説者が「態度保留者の多くは、ギリギリまでテメルと交渉して、少しでも多くの議員割り当て金を引き出そうする欲深い政治家たちだ」と指摘するのを聞いた。
 まったく同感だ。
 コラム子はJBSショックの前まで「テメルの今の評判は最悪だが、実は30年、50年後には名大統領として名を残す可能性がある」と思っていた。「労働法改正」「社会保障制度改革」という錦の御旗を掲げたたぐいまれな政権だったからだ。
 この二つは歴代大統領ができなかった歴史的課題だ。もしもやり遂げたら、今は汚職疑惑まみれのイメージでも、後世の歴史家からは「他の大統領が出来なかったことをやった」と讃えられるかも―と思っていた。
 だが今回、ジャノー告発を逃れる票集めのために、すっかり〃奥の手〃を浪費し、底力を消耗した印象だ。「告発第2波」直撃を受けた時、使える資金や手はだいぶ減っただろう。
 たとえ、汚職まみれで裏ワザを駆使してでも「労働法改正」「社会保障制度改革」をやり遂げてくれるのであれば、ブラジルの将来にとってかなり有益な大統領になるはずだった。
 だが、今のようにあらゆる奥の手を保身のために使い尽くしている状況では、社会保障制度改革は難しい気がする。事実、それだけの金と手を尽くしても今回263票しか集まらなかった。同改革には議会の60%に当たる308票が必要。とても届かない。
 これから「第2波」でさらに底力を消耗させられたら、大課題に取り組む体力は残っていないかも。もちろん、今回を機に勢いを回復して同改革をやり遂げる可能性もあるが…。
 JBSショック以前は、この二つを6月には議会承認させる勢いだった。というのも、国民に悪印象を与える社会保障制度改革が遅くなるほど、政治家は来年の選挙に悪影響をあたえると心配で早めに通すつもりだった。
 「告発第2波」が8月後半に始まり10月に収束したとして、11月から社会保障論議をしたら、すぐに年越しだ。そうなれば選挙の年。国民の目を今以上に気にする時期だ。通すのはさらに難しい。
 たしかにテメル政権自体は「第2波」をしのいで、来年まで続きそうだが、その過程で「死に体政権」になるかも。そうなると財政再建は遠のく…。金融市場がそんなテメルを見限ったら、どうなるのか。
 来年選挙前の抗議活動はかなり活発化しそうだ。(深)