ブラジル三井物産(土屋信司社長)が運営する「ブラジル三井物産基金」が設立10年目を迎え、『基金改革』を行っている。『支援対象プログラムの自立自走支援』などを社会貢献活動の新たな方針として掲げ、広報も強化していく。日系企業が基金を作って社会貢献をするのは、三菱系企業によるUSP(サンパウロ大学)向け奨学金制度などもあるが、数としては少なく貴重な取り組みといえる。
同基金の担当である事業部マネージャー、山口晃義さんによれば、日本―ブラジル間の相互理解、ブラジルの課題解決を目指し、「環境・教育・国際交流」に関するプロジェクト支援するのが基金の主旨。
日本移民百周年を記念して08年2月に設立され、初案件は日本から帰国したデカセギ子弟の社会適応を助ける『カエル・プロジェクト』(中川郷子代表)。今も支援を継続中だ。
さらに、サンパウロ州立総合大学(USP)の法学・工学部の学生や研究者を対象に冠口座の開催も行なう。リオでは州立小中高校の生徒を対象に、日本・ブラジルに関する文化作品を募集する『リオ州日伯文化コンクール』を同州教育局、在リオ日本国総領事館と共催する。
12年からはサンパウロ日伯援護協会が運営する自閉症療育学級『PIPA』への支援も。14年10月にサンパウロ州保険局から医療施設として認定されるまでになり、今ではSUS(統一医療保険制度)との業務提携が可能になった。保護者会が外部への広報や募金活動をするなど、自立的に運営費を集め始めている。
13年から支援を始めた『NEOJIBA』はバイア州政府が主体の青少年向け音楽教育プロジェクト。5歳から高校生までの青少年が放課後に参加し、楽器の奏法などを教わる。州政府は参加児童によるコンサートを行って運営費にあてるほか、機材購入などのために企業に対し単発の援助を申請している。
UNESCOが14年から進めている『持続可能な漁業』プロジェクトはパラー、アマパ、マラニョン州のアマゾン河畔の漁師を対象としている。同地の漁師コミュニティーに対し、環境保全や計画的な漁業についてのワークショップを行い、乱獲を防ぐ。同基金は昨年からこの支援をはじめた。
サンタクルス病院への医療器材寄付や日本・ブラジル修好120周年での日本館改修などの個別案件への寄付も行ってきた。
今後の方針としては「対象団体に100%支援するのではなく、団体が自ら後援者・企業を見つけるなど、自立した活動を促す支援を展開していくこと、ブラジル社会全体に向けた社会貢献活動をさらに進めることを掲げている」と語った。
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「ブラジル三井物産基金」では、昨年末からはサンパウロ市内の学童保育機関「ABCD・ノッサ・カーザ」の支援も行っている。施設には約300人の児童が放課後に通い、そこで他の児童と遊び、勉強することで非行を防ぐ役割を担う。薬物依存症の治療に通う保護者向けの託児所では約20人が生活する。これまでに同施設の改築のほか、社員から集めた募金で施設の児童にクリスマスプレゼントも贈ったとか。新任の駐在員らはNEOJIBAやABCDなどの支援現場の見学する。「基金の活動を実際に見ることで、社会貢献活動への理解、『仕事をしていて良かった』という就業意欲や誇りに繋がるは」(山口晃義さん談)という効果も期待しているとか。