10日未明、下院の政治改革特別委員会が、17対15というきわどい票で、大政党に有利な選挙システム変更案(ディストリタン=大選挙区単記相対多数性)を承認したが、下院・上院全体での通過が難しいと見られている。10、11日付現地紙が報じている。
下院の特別委員会は9日、「ディストリタン」に先立って、公的な金による選挙基金設置法案も承認しているが、これら2案はどちらも選挙関連法案で、成立には上下両院で各2回、60%以上の賛成票獲得が必要だ。また、来年の統一選に間に合わせるには9月中の議会承認が求められる。
現行の選挙制度では、2015年に企業献金が禁止されたため、個人献金と候補者の自己資金、国が各党に払う政党ファンドからの資金の三つが選挙資金となる。
9日に25対8で承認された選挙基金設置法案は、国庫への歳入の0・5%にあたる金額を各政党への選挙基金とするというもので、現在の政府財政に換金すると約36億レアルに相当する。ただし、各政党への割当額などの詳細は今後の検討課題だ。
この選挙基金に関し、ジェツリオ・ヴァルガス財団のジオゴ・ライス調査員は、「経済危機の上に、保健や教育部門への政府の資金が足りない状況下での基金設置は、国民への負担を増やすだけになってしまう」と警鐘を鳴らしている。
一方、10日未明に下院特別委員会で承認されたディストリタンは、連邦議員や州議員、市会議員の当選システムの改正法案だ。
現在の選挙制度では候補者名もしくは政党名で投票を行うが、当選を決めるのは候補者個人の得票数ではない。現在は、各候補が得た票が政党毎に集計され、投票総数と各政党の得票数から各政党の当選者数が割り出される、いわゆる「比例代表制」の形だからだ。
だが、ディストリタンでは単純に多く票を獲得した議員が当選し、落選者への票は事実上効力を失うし、極端に多くの票を得た候補の票が他の候補の当選に繋がる可能性もなくなる。このため、今後は、より多くの候補者擁立より、当選可能な候補を立てる方針への変更が強いられる。
ディストリタンについては「零細政党が不利になる」などとし、現時点では反対という政党も相当数ある。反対者は労働者党(PT)を中心とする野党だけではなく、社会民主党(PSD)や共和党(PR)、ブラジル共和党(PRB)など、連立与党の中で強い勢力となりつつあるセントロン系の政党も反対の声をあげている。
また、上院が既に承認し、下院の審議待ちの法案には、議員選での他政党との連立出馬を禁じる法案もあり、より大きな政党との連立に依存してきた零細政党の立場がより厳しくなる。
また、政治改革法案の中には、「下院の議席数が1・5%未満の政党には政党ファンド利用や議員特権を認めない」との規定もあるとされ、零細政党は生き残りさえ困難になりかねない。