『カエル・プロジェクト』代表の中川郷子さん(60、東京都)は「日本から戻ってきた子弟の中には、家庭問題を抱える子もいる」という。
ある小学6年生の男の子は2週間ほど通学しない日が続いていた。スタッフが家庭訪問すると、酒浸りの父親、うつ病を患う母親がいて、男の子は部屋に引きこもっていた。家計は男の子の姉が仕事をして支えていたが、稼いだ金は父親の酒に費やされていた。劣悪な家庭環境で、男の子は学校に行く気力をすら無くしていた。
デカセギ中に離婚、家庭崩壊したケースは多く、そのしわ寄せは子どもに現れる。親が家庭問題を解決しないと、子どもも立ち直りにくい。同プロジェクトは本来、子どもが支援対象だが、家庭の状況まで把握しておく必要がある。
中川さんは「家庭問題に直接踏み込むには限界がある。でも、子供が学校から笑顔で家に帰るようになれば、家族も明るくなるはず。そう思って子供たちを学校に馴染ませるための支援を続けている。それに家庭の話を学校で相談できなくても、ここでなら話せる」と意義を語った。
「定期的にワークショップを開催したり、皆で史料館に行ったりしている。日本語を話して忘れないようにする目的はあるけど、一番は息抜きね。学校や家庭に自分の居場所を見つけられない子にとって、ここは拠り所」という。
11月から始まる見通しの四世ビザについては「反対ではない」としつつも、「また子供たちが犠牲になるのならダメ」と釘を刺す。「デカセギ開始から30年が経ち、初期の頃の子供たちが今、大人。その大人たちには日本で小学校に通わず、ブラジルに帰ってきて日本語もポ語もまともに話せない人が実際にいる。子供も含めてしっかりとした受け入れ態勢ができるのであれば、日本で過ごすのはいい経験になる。だが、それが無ければ同じことの繰り返し」と指摘する。
「日本で発達障害の小中学生は日本人で約2%、外国人で約6%と言われる。外国人の子の場合、知能に遅れが見られる理由として言葉が通じない、環境に適応できないというのも考えられる。簡単に診断を下すのは危険」と外国人子弟の扱いを不安視した。
プロジェクト名はデカセギ子弟がブラジルに「帰る」と、当地に慣れて自分を「変える」の意味を併せ持つ。「最終的な目標は学校を卒業した子供たちが自立した生活できるようになること。将来どういう風に社会と接点を持つのかまで考える必要がある」という。
「現在、ブラジル三井物産基金から支援を受けているが、参画する企業や個人の方が多ければ、それだけ子供たちに色んなチャンスを与えられる。大学生になった彼らを、企業がインターンとして受け入れるのも支援のひとつ。その企業に就職するなど上手くサイクルが回るようになれば、持続可能なプロジェクトになる」と話した。
今月18日にはブラジル日本商工会議所の定例昼食会で、同プロジェクトの活動を伝える映像を流し、出席した会員企業関係者約120人に紹介した。中川さんは「デカセギ子弟の教育は、両国が社会全体で見つめるべき問題。まずは関心を持ってもらい、支援の輪を広げていきたい」と展望した。(終わり、山縣陸人記者)
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『カエル・プロジェクト』の中川さんは、「日本から帰ってきた子供はポルトガル語も日本語も中途半端になってしまうことがある。どちらかの言語を自分の中に確立させないと論理的な思考ができなくなる」と強調。将来的にブラジルの社会で自立するためにはポルトガル語の習得が必要であるとした。同プロジェクトの詳細はHP(https://projetokaeru.org.br)で。関心のある企業、個人は中川さん(電話=11・99963・5145、メール=kynakagawa@gmailo.com)まで連絡を。