「和太鼓リーダー研修」の2日目、今年の全伯大会で優勝した飛翔太鼓(コロニア・ピニャール)が演奏を行なった。チームは13年、15年も優勝を果たし、5年間で出場した3大会全てを制覇している。栄光の影には、チームの問題を乗り越え、ひたすら優勝を目指したメンバーの姿があった。
飛翔太鼓のメンバーはコロニア・ピニャール日本語モデル校の全校生徒12人。同校は05年から授業に太鼓練習を取り込んでいて、多くの子供たちが10歳になる前から太鼓に慣れ親しんでいる。
メンバーの西川ゆかりさん(16、3世)は「太鼓を始めたときは遊びのような感じだった。でも、自分より小さい子がチームに入ってきて、先輩たちのように見本になりたいと思うようになった」と言う。「自分にとってチームはかけがえの無いもの。ずっと太鼓を続けていきたい」と笑顔で話した。
2回の優勝を経験し、現在はチームの指導にあたる中原一男さん(18、3世)は今年の全伯大会を振り返り、「今までで一番辛かった」と言う。
大会の1カ月前に、チーム内練習に取り組む姿勢について口論となり、メンバー同士の関係が悪化。一人が練習に参加しなくなった。親も交えて話し合いを重ねたが、関係が完全に修復することは無かった。
それでも最終的にメンバー全員で大会に出場し、優勝を勝ち取ることができた。「メンバーが好きでも嫌いでも、とにかくいい演奏をしたい。その思いは皆同じだった」と話す。
「僕たちの目標は大会で優勝すること。問題が解決していなくても、チームワークを発揮することはできる。それに優勝した後はやっぱり嬉しかった」と言う。来年3月には同じメンバーで、ブラジル代表として「日本太鼓ジュニアコンクール」に出場する。
全伯大会に優勝したチームは翌年の大会に出場しないため、次に飛翔太鼓が優勝争いに参加するのは2年後の2019年。ただ、そのときには年長のメンバーが卒業し、在校生は7人程度になる。規定のチーム最大人数は13人だから、その約半分だ。
中原さんは「きっと優勝できるのは今回まで。次は出ることすら難しいかもしれない」と話す。一方で、「人が減って苦しくなるだろうけれど、チームが無くなることはない。常に全力を出して演奏することは変わらない」と語った。
飛翔太鼓の元メンバーで大学生の市川早由吏さん(20、3世)は「太鼓を通じて、結果が出るまで努力し続ける姿勢を学んだ。とても辛かったけどね」と笑う。
現在は栄養士になることを目指して勉強していて、「諦めないで頑張ればきっと実現できる。これも太鼓から学んだことです」と話した。(終わり、山縣陸人記者)
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太鼓指導者の蓑輪敏泰さん(69、宮崎)は、演奏時の格好も徹底して指導する。例えばタトゥーが入っていればシールやリストバンドで隠させるし、ピアスなどの装飾品も厳禁。ブラジルの風習としてある程度は許容しても良いのではという意見もあるそうだが、断固として認めない。蓑輪さんは宮崎で指導していたとき、チームのメンバーがタトゥーを入れていたせいで、大会で悪い評価を受けた経験を持つ。「審査員の目がタトゥーに行ってしまう。いくら良い演奏ができてもそれではダメだ」と言う。「チームがブラジル代表として日本に行くことを目指すのであれば、許していてはいけない」と自らに言い聞かせ注意しているそうだ。厳しい言葉の裏には、高い志があることを知った。