3カ国を体で知る日系三世の河内さんの見方は、実に興味深い。
「たとえばスペインは外国人に排他的だから、植民地でも混血しなかった。だがポルトガルは人種差別が少ないので、ブラジルはその思想を受け継いでいる。こちらのピアーダ(笑い話)で『神様はいろいろな人種を作られたが、ポルトガル人は〃混血〃という人種を作った』というのがあります。元々人口が少ない小国でしょ。だから歴代のポルトガル王は植民地に行った男たちに対して、『現地の女と結婚して根を張れ』と命令したんですね」。
混血主義にくわえて、河内さんは「ブラジルとの共通点は何といっても汚職の多さ、あとブロクラシア(煩雑な書類手続き)も一緒」と締めくくった。やはりブラジルの原点はここにある。
小国が世界に広大な植民地を持ったから必然的に混血になった。そんな植民地システムが戦後、逆に足を引っ張る時代になり、74年の独裁軍事政権の終焉を招いた。
だが、その後も実効支配をしていた地域があった。インドネシアの東ティモールだ。ここも02年に独立を果たし、今度こそ、15世紀の大航海時代から実に600年も続いた「ポルトガル帝国」は幕を閉じた。こうしてみると、けっこう最近のことだ。
河内さんはこう続ける。「1974年にカーネーション革命で独裁政権が倒れたと思ったら、それまで禁止されていた左派が一気に力を持って社会党と共産党などが台頭し、銀行や主な企業の国有化を進めた。そのおかげで経営が悪化し、多くの工場がつぶれた。経済が良くなったのは、ECに加盟してから」。
ヨーロッパ共同体(EC、EU=欧州連合の前身)に加盟したのは1986年だ。
「ECから補助金が入るようになって高速道路、鉄道などのインフラ整備が進み、ものすごく伸びた。それなくして今の観光業の繁栄はありえないですよ。でも、そのおかげで最も補助金を借りたEU4大借金大国(ポルトガル、スペイン、ギリシャ、アイルランド)になってしまった」と頭をかく。
借金のおかげでEUから緊縮財政を求められ、高い税金に苦しむ。「消費税が23%ですよ! 給与の25%が所得税で源泉徴収され、残った75%を使おうとすると、そこから23%の消費税を取る訳ですよ。平均給与はスペインの6割で、そこから高額な税金をしぼられるので生活は大変」と憤る。
だが「気候は良い、食べ物は上手い、人は親切、治安も良いので居心地は良い」という。
河内さんに日本人奴隷についての情報を訊ねると「確かにいたかもしれないですが、こちらではそんな話聞いたことがないですね」とのこと。ただし、「そういえば、コインブラのセ教会の中にある共同墓地に、1500年代の終わりごろに日本人数人が埋められたという話を聞いた。コインブラにいったら現地のガイドに聞いてみたらいいですよ」と耳寄りな情報を教えてくれた。
1500年代終り頃であれば、まさに天正遣欧少年使節の頃でもあり、日本人奴隷が連れて来られていた時期でもある。なにか手がかりがあるかもしれない。(つづく、深沢正雪記者)
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テージョ川沿いの「発見のモニュメント」から川上を望むと、大きな橋が架かっている。その向こう岸には、リオの名所「コルコバードの丘のクリスト・レデントール(救い主、1931年完成)」に似た、巨大な立像「クリスト・レイ(王)」像が建っている! リオに触発されて独裁者サラザールが1959年に建立したものだとか。戦後には、旧植民地に触発されて元宗主国に〃逆輸入〃する関係になっているというのが興味深い。