「中は写真撮影禁止!」と厳しく入口で係員からと釘を刺され、「なぜだろうな」と首をかしげて、コインブラ大学図書館に入ったら、これでもかというぐらいに豪華な金箔が壁や柱に施されていた。まるで内側が金閣寺のようだ。
無事に故郷巡り一行と合流し、1717年に作られた石造りの伝統ある建物で、バスケットコートだけの体育館ていどの大きさ。その壁面は上までぎっしりと16世紀から18世紀に出版された貴重な6万冊の古書で埋まっている。
グーテンベルクが印刷技術を発明したのが、1445年頃と言われているので、その少し後に出された主だった本がここに並んでいる訳だ。
わざわざ副学長が故郷巡り一行を歓迎してくれ、「ここには人類の歴史の一部が収められている」と挨拶を始めたのを聞き、最初は「何を大げさな」と思った。
だが欧州最古の大学の由緒ある図書館であり、その豪華さと言い、たしかに「人類の歴史の一部」と言っても過言ではない。こんなところが火事にでもなったら、その損害は人類レベルだ。
さらに副学長は「実はブラジルと当大学は縁が深い。18世紀、ブラジルのエリート階級の子弟は、みなここで学んだ。そして独立を夢見て思想を養った。今のブラジルがあるのは、この大学のおかげである。スペインはあちこちに大学を作ったが、ポルトガルは長い間ここだけだった。つまりポルトガル語の大学はここだけだから、ブラジルの北東部、南部のエリート子弟はみなここで学んだ」と続けたのを聞き、すごい関係だと改めて感じ入った。
コインブラは16世紀に来た最初の日本人が学んで死んだ場所であり、ブラジル植民地時代のエリート子弟が独立の夢を育んだ地でもあるのだ。
まさに〃三角関係〃を象徴する場所だ。現在も2万5千人の学生中、2千人がブラジル人。言葉が同じというのは強い。ちなみに日本人留学生も約20人いるという。
ガイドのミライさんは「ブラジルが植民地だった時代、キント税を取り上げ、それでこの金箔を貼った。大学の建物が贅を凝らし、貴重な本を集めることができたのは、ブラジルのおかげ」と付け足したのを聞き、複雑な気持ちになった。
「キント」とは、ポルトガル王室が1534年に始めた税制で、植民地で掘り出されたあらゆる貴金属の20%(Quintoは5分の1のこと)を王室に納めるように定めたもの。ブラジルでは18世紀にミナス州などで金発掘ブームが起き、キントが徴収された。有名な観光地であるミナス州オウロ・プレット、サンパウロ州レジストロの上流付近も金採掘場の代表格だ。それが流れ流れて、この図書館の一部になっている訳だ。
植民地時代に起こされた反乱「ミナスの陰謀」(Inconfidencia Mineira、1788~1789年)は、キント税の重さに耐えかねたブラジル人エリート子弟が中心になったはずだと思い出した。首謀者チラデンテスは「ブラジル独立運動の先駆者」として賞賛され、彼が処刑された4月21日はブラジルの祝日に制定されている。(つづく、深沢正雪記者)
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