ブラジルを代表するサンパウロ州の2大新聞、フォーリャ紙とエスタード紙は5日の紙面で、4ページからなる特別冊子編成扱いで共に「ロシア革命から100周年」の大特集を組んだ▼今回のこの100周年に関してはどこの世界もそれなりに記事としては展開しているが、一見ロシアとそれほど関係ないように見える遠く離れた南米のブラジルで、ここまで大きな特集が組まれるのはかなり異例なようにも見える▼だが、その必然性は見える。それは、好むと好まざるに関わらず、「左翼」という存在がブラジルにおいて無視できない存在となっているためだ▼もっともブラジル国内において、左翼嫌悪が上昇していることは確かだ。それはメンサロン事件、ラヴァ・ジャット作戦の2つの大型汚職で労働者党(PT)が国民の信用を落とし、ジウマ大統領の罷免と共に、13年続いて来た政権も追われた。ブラジル繁栄を築いた英雄のように熱烈な賞賛を浴びてきたルーラ元大統領も今や片手の指では足りないほどの刑事裁判被告となっている▼そこに加えて、ベネズエラのマドゥーロ独裁政権の、今やキューバの悪名高き時代に勝るとも劣らない圧政の状況なども日々耳に入り、南米での左翼のイメージも悪化している▼だが、それにも関わらず、現時点での来年の大統領選での世論調査での支持率はルーラ氏の再選が国民の30%以上となっている。この背景には、「PTを追い落とすために反対派がクーデターを起こした」と信じる狂信的な支持者や、PTが政権から降りたことで社会福祉制度が崩壊することを恐れる貧困層などがいるためだ▼ただ、ルーラ氏の容疑がどんなに黒くなろうが支持率が衰えないことで国民の左翼嫌悪が高まって右傾化、それも極右化がはじまっていることも事実だ。差別主義者の下院議員、ジャイール・ボルソナロ氏の大統領選支持率2位という事実がその例だ▼その背景には、米国でのトランプ政権成立や、欧州での極右政党の議席増加などで、先進国で極右がいわば「流行り」に見えることや、ラヴァ・ジャットの矛先が現テメル政権の民主運動党(PMDB)や旧・野党第1党の民主社会党(PSDB)といった中道、ならびに中道右派にまで及んだことがある▼だが、ボルソナロ支持者のネットなどから伺える心境では、表向きに言うように本当に汚職を撲滅させた世の中がほしいのか、同氏の極端な言論をただ面白がっているだけなのか、この機に乗じて「古い価値観」として捨て去られそうなっていた差別主義的な思考の再浮上に期待したいのか。それがハッキリと見えてこない▼両紙の特集では、そんなブラジルでの左翼思想や共産主義を取り巻く現在の様子などは特に描かれず、ひたすら旧ソ連の社会的、歴史的な是非を検証しているに過ぎない▼ただ、そうした紙面を通じ、「社会にとって何が正しく、何がそうでないのか」の判断を読者に強く促している意図は感じられる。そして、それこそが、次の国民の大統領選びにも求められていることのようにも感じられた。(陽)