ブラジルの政界用語の中のひとつに「カフェ・コン・レイテ(コーヒーと牛乳)」という言葉がある。これは「カフェ」がサンパウロ州、「レイテ」がミナス・ジェライス州を、それぞれの特産品に喩えたものだ。これはつまり、「ブラジルの大統領は伝統的にこの2州の政治の長の持ち回り」ということを意味する▼実際問題、共和国になった1889年から1920年代まではそれが習慣化しており、その名残か、現在もこの2州の政治家は国政での影響力も強い印象を与えがちだ▼だがコラム子は長年、これをすごく不思議な現象としてとらえていた。「なぜ、リオ州ではないのか」と▼リオ州といえばサンパウロ州に次ぐ国内2番手の州であり、世界的な観光地で、さらに言えばブラジリアに遷都する前、首都だったのはリオ市だ。そんな重要な地を差し置いて、なぜミナスとサンパウロ州の2つなのか。その理由が長年わからなかった▼それが証拠に、実はブラジルの歴史上において、国民の選挙によって選ばれたカリオカ(リオ州民)の大統領は、なんとこれまで一人として輩出されていないという驚くべき事実まである。過去に大統領になったカリオカは2人いて、第7代のニロ・ペサーニャ氏(1909~10年)、第30代のジョアン・フィゲイレード氏(1979~85年)がそれにあたるが、前者は先代大統領の死で副から昇格、後者は軍事政権期に議員の間接選挙で選ばれたに過ぎない(厳密に言えば5代前のコーロル氏や3代前のカルドーゾ氏も生まれはリオだが、選挙地盤は異なる)▼「なぜカリオカはここまで国政に弱いのか」。コラム子も長年このように考えていたが、最近になって、ようやくその答がわかりつつある。いや、むしろ、「これではとても国政まではまかせられない」とさえ思いはじめるようになった▼現在のリオでは、3人の元州知事、3人の元州議会議長、5人の会計調査院判事という、州政府を司る中核の人たちが続々逮捕された。さらに、彼らの時代に横行していた収賄の応酬で州の財政はズタズタだ▼とりわけ醜態をさらしているのがセルジオ・カブラル元州知事(2007~14年)だ。同氏の在任中はサッカーのW杯やリオ五輪の開催が決まった頃で、そのバブル的な余波で浮かれ上がり、収賄し放題。現在、16の裁判の被告となっている同氏の収賄総額は発覚しただけで3億8600万レアル。この額は、今年8月に「サッカー史上最大の最高額」と言われた、ネイマールのPSGへの移籍金3億7700万レアルをも上回っているありさまだ▼また、州政府以外にも、リオ選出だった前下院議長のエドゥアルド・クーニャ氏は、ラヴァ・ジャット作戦で最も目をつけられた政治家であり、ジウマ大統領を自身の政治手腕で罷免に追い込みつつ、自身も収賄の連続で議員罷免に遭い、今や獄中生活を送っている▼そういえば、現在大統領選の世論調査で2位の極右候補ジャイール・ボルソナロ下議もリオ政界が拠点だ。同氏は果たして「リオ地盤の大統領が生まれない」ジンクスを破ることができるか? (陽)