エスタード紙が刊行する「パラダール(味覚)」特集号『サンパウロの美食100選 17/18年度版』(12月14~20日付)で、うち20食に和食が堂々入選を果たした。食通の審査員22人による厳正な審査を経て、美食100選を10のカテゴリーに分けて紹介。和食は「居酒屋」と「寿司」の2カテゴリーで大々的に報じられた。従来「日本食といえば寿司、刺身、天ぷら」だったブラジル人の嗜好が変化しつつある現実を先取りする特集のようだ。
今回新カテゴリーに追加された「居酒屋」。当地ではブテッコと呼ばれる酒場で、一日の終わりに友人や同僚らと杯を交わし、つまみを食べながら歓談するというのが日常的だ。「簡素で騒がしくも、美味しいつまみで抜きん出ている日本式居酒屋は、サンパウロ市市民の嗜みになりつつある」と紹介されている。
紙面1頁を大々的に使って紹介された『枝豆わかめ(15レ)』。一見地味な一品だが、「芳ばしい胡麻油で味付けされた一品。ビールや酒のお伴には最高」と絶賛。そのほかにも、茄子田楽や牛タン塩、炙りマグロの山葵ソース添えや豚カツサンドが並ぶ。
入選した店の一つに、リベルダーデ区の日本食の目抜き通りトマス・ゴンザガ街の老舗居酒屋『金太郎』がある。平日夜は、ブラジル人客で常時満席となっている。
同店は1993年に開店。昔ながらの味を守り、14品の作り置きのつまみが並ぶ。女将の樋口リリアさん(二世)は「昔は日本人客だけ。今では殆んどがブラジル人客。『イザカヤ』という言葉も通じるようになってきた」とくすりと笑う。
ブラジル人客が通うようになったのは2000年以降。移民90年祭を終え、東洋街が観光地として脚光を浴びるようになってきた頃だ。口コミでじわじわと評判が広まり、05年に同紙で取上げられて以来、その勢いは一気に加速した。
なかでも一番人気というのが『茄子の酢味噌和え(15レ)』。「昔は酸味や甘味の強い食べ物はブラジル人には好まれなかった。ところが今では逆にすっかり人気の一品」と語り、嗜好が変化しつつあると実感する。そのほか醤油で甘辛く煮た砂肝も人気だという。
ここ数年、ジャルジン・パウリスタ区では、居酒屋が次々と開店し注目を呼ぶ。リリアさんの長男も居酒屋カラオケ『ドンちゃん』を年初に同地区で開店させた。ラーメン戦争に続き、居酒屋ブームも到来しそうな勢いだ。
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『サンパウロ美食100選』特集号にある、もう一つの日本食カテゴリーが「寿司」。「高値だが、この一貫はそれに値する」とまず絶賛。高級寿司店や会席料理店からお勧めの10貫が紹介され、そのなかには著名な日系人シェフ坂本淳さんや、近年サンパウロ市で一番の寿司職人として名を上げる山下エジソンさんも名を連ねる。厳選された寿司は、食材の旨みを存分に引き出すため一工夫が加えられているのが特徴。岩塩をまぶしてイカ本来の風味を楽しめる一貫や、ポン酢のゼリーをネタであるスズキに載せてサッパリと味わう一貫などが紹介されている。クリームチーズや果物などが入った変わり寿司が人気を博し普及した一方、伝統の味わいに立ち返るブラジル人も増えてきそうだ。