国際レコード産業連盟(IFPI)ブラジル支社が行った、ブラジル人の音楽視聴の実態調査。2回目の今回は、「今日のブラジルで最も聴かれているアーティストは誰か?」に迫ってみよう。
IFPIは2014年9月以降、約3年間の対象期間のうちにどのアーティストがブラジルで最も聴かれたかを調査したが、1位に輝いたのは、昨年デビューした、「ブラジル版カントリー」ことセルタネージャの22歳の女性歌手マリリア・メンドンサで、視聴(再生)回数は実に41億回に及んだ。この数は、ブラジルでも非常に人気の高い国際的なアイドル、ジャスティン・ビーバーがブラジルで同時期に記録した12億5千回の3倍以上の数字だ。
セルタネージャは圧倒的に強いジャンルで、上位10のアーティストのうち、半分の5アーティストを独占した。リオ五輪の開幕式のパフォーマンスで有名になったアニッタは、テレビや雑誌ではそれらセルタネージャのアーティスト以上であるにもかかわらず11位。いかにこの音楽の人気がブラジルで高いかが伺われる。
このセルタネージャ人気の秘訣は、「新しい流行を取り入れるのが他のジャンルより巧い」ことと指摘する声が多い。ひと昔前のセルタネージャは、「男性デュオが歌うもの」というのが半ば決まりの男くさい世界だった。ところが2010年前後あたりからルアン・サンターナを筆頭とするアイドルのセルタネージャ歌手が現れた。サウンドもそのあたりから英米のロック、ポップスからの影響が強まっており、若いファンに広がる要因になった。
さらに数年前から、パウラ・フェルナンデス、マイアラ&マライーザといった人気女性アーティストが出てきたが、女性のみならず、セルタネージャ、そしてブラジル音楽界の頂点に立ったのがマリリアだ。
22歳のマリリアは、大きな身体でパワフルな歌声を聞かせる。なんとなく、現在、世界の音楽マーケットで最も売れるイギリスの女性歌手、アデルを思い出させるが、歌っている世界観も近いのが特徴だ。
もともとマリリアは歌手ではなく、作詞・作曲を行う裏方としてセルタネージャ界に入り、今回の調査で2位に入った男性デュオ、エンリケ&ジュリアーノやマリリア&マライーザなどに曲を書いていたが、彼女にも歌手としてのデビューの話が巡ってきた。それはまだ2014年と最近のことだ。
マリリアのマネージメントは当初、彼女にパウラ・フェルナンデスのような、ロマンティックな恋の歌を歌うよう求めたが、彼女はそれを拒否した。マリリアいわく、彼女自身が求めたのは「リアリティ」であり、そこでは「酒びたりのだらしない男性」や「交際相手の男性からの浮気」といった題材が選ばれた。すると、彼女の歌に共感を示す女性たちが多く現れ、彼女はそのうち「ライーニャ・ド・ソフリメント(苦しみの女王)」の名を頂戴するようにもなっていた。
偶然にも、アデルの人気が2010年代の前半に急速に高まったのも、「失恋ソングの女王」としての評判が高まったためだ。世の女性の共感ポイントには普遍性と同時代性があり、そこに両者が共にうまくはまってしまった、ということか。
さらにマリリアは、自分の歌に、ブラジル北東部の人たちが熱心に反応していることに気がつき、公演活動はそこに力をおいて行なった。セルタネージャの本場はあくまで彼女の故郷でもある中西部のゴイアス州であり、北東部はセルタネージャのなじみは薄かったため、プロモーションとしては変り種ではあったが、これが功を奏した。彼女の人気は北東部で熱狂的に広がり、それがやがて全国区にまで広がったのだった。
15年に北東部パラー州で録画した彼女初のDVDライブ盤には客が15人しかいなかった。だが、1年後、次のDVDは北部アマゾナス州マナウスでの4万人の大観衆を前にしたものへと変わっていた。
マリリアは「他の女性を励ましたかった」と言い、自分の成功の理由を「フェミニズム」としているが、彼女はそれを、「私のフェミニズムは理論や反抗とかで形作られたものじゃない。私は自分の生き様をぶつけ、〃自分らしさ〃や〃自分がつかんできたもの〃を表現しているの。私自身がフェミニズムなのよ」という。(15日付フォーリャ紙より)