暴力事件による死者が相次ぐリオでは、遺族が家族を失った悲しみで、心身に変調をきたし、その後の家族の絆が崩れ、経済的にも困窮していると、9日付現地紙が報じた。
リオ市のオズワルド・クルス研究所(Fiocruz)の心理学者ダニエラ・ヘルス氏は、「殺人で近しい人を失う事は、決して取れないあざのようにつきまとう。遺族は自分を責め、社会から隔絶された状態になり、家族の絆も危うくなる」と語った。
リオ市北部のマレー複合ファヴェーラに住むジウマ・ガウジーノさん(39)はその一例で、昨年2月に息子のダヴィソン・ルーカス君(14)を、警察と犯罪集団との間の銃撃戦の流れ弾で失って以来、一家の生活は大きく変わった。
当時のジウマさんは働いていたが、娘のラリッサさんが家事を手伝い、家の中は綺麗に保たれていた。だが、今のラリッサさんは部屋にこもりがちで、食器も流しに置かれたままだ。ジウマさんは退職して犯人探しに専念しており、家族は夫の稼ぎだけで暮らしているが、事件から10カ月以上経った今も、警察は調査中と語るのみだ。
リオ市では理不尽な暴力事件で命を落とす人が絶えず、遺族たちは、公的機関による遺族への援助も、事件調査も不徹底だと批判している。
軍警が容疑者に上がっている事件についてコメントを求めても、軍警は「調査はあくまで市警の領域」と答えた。殺人事件の解明率の低さを問われたリオ市警や、そうした事実への見解を問われた州人権局も、8日現在は返答を避けている。
NGOのソウ・ダ・パス研究所によると、2015年のリオ市の殺人事件解明率は11%に過ぎなかった。同研究所のブルーノ・ランジェアーニ氏は、「警官が容疑者だと、捜査する警官が庇ってしまう可能性がある。また、殺人などが起きても犯人がなかなか捕まらない場所では、住民が怖かり、声を挙げられなくなってしまう」と語る。
昨年3月30日にリオ市北部アカリ地区の学校周辺で犯罪組織と軍警の銃撃戦が起きた際、警官が学校の方向に向けて撃った弾に校内で被弾して死亡したマリア・エドゥアルダさんのケースは、警察の関与が明るみに出た数少ない例だ。ランジェアーニ氏は、軍警の関与が明らかになれば、州が、遺族に対する早急な賠償金支払いと、法的、心的援助を行うべきだが、ほとんど実行されていないとしている。
同州では遺族に賠償金が支払われるまでの時間は平均5年。それまでの間は、遺族は実費で心理的援助を受けなくてはならない。また、サンパウロ州には被害者支援センター(Cravi)があるが、リオ州にはそれと類似の公的機関さえ存在しない。