「アア、中々よく似合うわ」自分の作った「世界に一つの首飾り」に満足する。
夜になった。シャワーを浴びようとして、首飾りが外れない、先生に留めてもらったので外し方が判らない。安物だから簡単なはずなのに、どうしても外れない。近年指先の神経がバカになって、指紋が薄くなって、細かい仕事がまるっきりできなくなった。昔なら簡単に外せたのに…留め金を鼻の下に持ってきて、その上に虫眼鏡を置いて覗き込もうとするが、首飾りが短すぎて何にも見えない。付けたままでシャワーに入ると、濡れたこのビーズから色が出るに違いない。体中赤い色にまみれている姿を想像すると、シャワーは取りやめだ。
翌日、首飾りを鏡の前で、あっちに引っ張りこっちに引っ張って、金具を動かしてみるが一向に外れない。安物なのに、えらく頑丈な金具だこと、これがタダだったなんて思えない。
今日のシャワーはどうしよう。このビーズから真っ赤な汁が出たら、体中真っ赤じゃあないの。濡れたネックレスから一晩中赤い色が染みだしてくる…とても今夜も浴びられない。
翌日は三日目。たかがこの赤いネックレスの事で三日もシャワーを浴びられないなんて! 仕方がない、娘に電話した。
「今度の日曜日でないと行けないわ。ダーイジョウブ、ダイジョウブ、一週間シャワーを浴びなくても死なないわよオ」…ムカッ。
孫に電話した。
「今、忙しいのよ。それハサミで切ったら?」…バカッ。世界に一つだぞ。
ついに友人に電話した。
彼女は何事かと鼻の頭の汗を拭き拭きすぐにやって来てくれた。
ネックレスを見て「フン」と言って、首の後ろに回って二秒でとってくれた。
持つべきは友…と言いたいが彼女は「あんたが変な声出すから死にかかったのかと思って来たのに、なんじゃ、たかがこんなことで」と言った。
でもやっぱり持つべきは友。
これで三日目にやっとシャワーをあびることが出来た。わが子より孫よりやっぱり友達!
(二〇一五年)
貴女のしたことは大恥です
子供の時から私は「痩せの大食い」。いやしくよく食べる。 その上、雰囲気が良いと最初から最後までずっと食べている。
食べ物の話を聞くだけでまずは見たい。見るとすぐに食べたい。この貪欲な欲望には我ながら常々うんざりしている。
レストランにお金を払うのは(美味しければの話だが)ちっとも惜しくない。しかし洋服にお金を使うのはもったいなくて我慢ならない。友人が洋服を買うのを見るだけでも腹が立つ。これを着たって何にも変わりないのに…ましてお金を使うなんて、と一人で憤慨する。
母に言わせると「そういいながらも貴女は、あれ食べない、これ食べないと嫌いなものの方が多いじゃあないの」というが、それはそれで、好き嫌いがあるのが人間として当然と思っている。なんでも食べたのでは豚と同じ。
子供の時は毎朝「おめさ」という物があった。
目が覚めるとすぐに食べられるように、枕元に菓子パンや、ビスケットなどが皿においてあるのだ。
朝まだき、ぼんやりと目が半分開く。母が台所で野菜を切っているリズミカルな音が聞こえてくる。