《アメリカに新しい帝国権力(novos poderes imperiais)はいらない》―エスタード紙(E紙)2日付によれば、米国のレックス・ティラーソン国務長官は先週、6日間でラ米5カ国を外遊するのに先駆けて、そう宣言した。
これは中国が豊富な資金を投じてラ米地域で影響力を増大化させる傾向を非難したもので、《中国は〃略奪者〃で、地域発展モデルを提示するように見せかけて、実は借金漬けにしようとしている》と断じた。
冒頭のコメントがすごいのは、米国自身が〃帝国的〃であることを認めた発言であることだ。左派抗議行動では「米国の帝国主義を打破せよ」というビラをよく見かけるが、米国ナンバー2の権力者、国務長官が自ら公言したことに驚いた。
加えて、E紙がそれを問題視せず、当たり前の発言として書き流していたことにもショックを受けた。「今さら」なのだ。
ティラーソンは就任1年目でようやくラ米訪問・・・、それだけ優先順位が低い。しかもメキシコ、アルゼンチン、ペルー、コロンビア、ジャマイカを回るが、ブラジルは入っていない。
E紙取材によれば米国務省に2012~17年に勤務したミッシェル・カミレリ氏は《ブラジルは、政府が弱体化して人気最低、法的正当性さえ疑われる遷移期にある。権力基盤が安定するまで、(米国が)ブラジルでできることは大してない》とコメントした。
同記事は、社会保障改革法案を躍起で承認させようとしている亜国政府は日程に入っていることを挙げる。つまり、ブラジルも昨年末に同改革案を承認していれば、日程に入ったかも。
今のテメル政権はすでにレームダック(死に体)だと米国が見ている現れか。当然、今月の同改革案承認も無理とみているのだろう。
今訪問はベネズエラ包囲網形成の意味もありそうだ。国務長官は《もしニコラス(ベネズラのマドゥーロ大統領)が再選しなければよし。もし彼にとって台所が熱くなりすぎたら、キューバの彼の良き友が海岸の豪邸を用意してくれ、彼はあっちで良き余生を過ごせるだろう》と今年のベ国大統領選に釘を刺す。
たしかに、自分に都合のよい制憲議会の立ち上げ、今選挙でも政敵二人を出馬不可能に追い込んだベ国の現状は酷すぎる。だが、国務長官が軍事介入まで示唆するのは、いかにもやり過ぎ、〃帝国主義〃的だ。
深読みすれば、米国はわざと嫌われる発言を連発して、〃裏庭〃中南米を「米国離れ」させるつもりなのか。
おもえば昨年8月にマイク・ペンス米副大統領がラ米歴訪した際もブラジルは外された。コロンビア、アルゼンチン、チリ、パナマだった。丁度ジャノー連邦検察庁長官の2度にわたる刑事告発の最中であり、「罷免されそうな人物」は会うに値しないと判断されたようだ。
ロシア国営メディア系「スプートニク」ブラジル版17年8月9日付電子版で、リオ州立大学国際関係学部のマウリシオ・サントロ教授は《10年前までは、このラ米を訪れる国家元首は、アルゼンチンは素通りしても、少なくともブラジルとチリを日程に入れた。今は逆だ。ブラジルの政治危機による大不況で大きな外交的ダメージを負っている》とコメントした。
ラ米勢にとっての最近の外交的な痛手の一つとして、米国務省ナンバー3のトマス・シャノン氏(60)が1月に退官したこともE紙は挙げた。
オバマ政権の2010~13年まで駐伯大使を務め、その後、国務長官、国務副長官に次ぐ西半球担当副長官に就き、ブラジル及びラ米世界の第一人者、橋渡し役と見られていた人物だった。トランプ就任以来、メキシコ国境の壁に代表されるラ米蔑視政策の中で居場所を失っていた部分もあるのだろう。
たしかに、汚職撲滅を目指すラヴァ・ジャット作戦が開始したジウマ大統領の頃から、外国首脳のブラジル訪問はガクンと減った。昨年1月にオランド仏大統領がラ米訪問した時はコロンビアのみ、昨年6月にメルケル独首相が来たときはアルゼンチンとメキシコ…。
それが客観的に見たラ米の重要国だ。ブラジルが低く見られるようになった原因、経済失策や汚職疑惑の根源であるルーラ元大統領が、今でも35%の国民から支持をうける現状はいかにも異様だ。外国の意識とはかけ離れている。
ラヴァ・ジャット作戦は、利害関係が複雑な国内より、客観的にみられる国外の方が冷静に評価されている。(深)
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