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JH講演=歴史領土問題に初めて言及=「日本と東アジアの安全保障」=元大臣らブラジル人有識者も参加

田中明彦氏

田中明彦氏

 在聖総領事館(野口泰総領事)は、日伯有識者による政策論議『日本と東アジアの安全保障 ブラジルにとって重要であるか?』を6日、ジャパン・ハウス内セミナールームで開催した。今講演では、国際政治学者の田中明彦氏(政策研究大学院大学学長、国際協力機構元理事長)を招聘。戦後、平和国家としての歩みを続けてきた日本を取り囲む、緊迫する東アジアの安保情勢について説明した。今まで中心だった文化発信拠点としての役割だけでなく、歴史領土問題の正しい認識を促すというジャパン・ハウス本来の部分を担ったイベントとなった。

 田中氏は「なぜ東アジアの話なのかと思う人もいるかも」と前置きしつつ、ブラジルの輸出入先として共に1位の中国、5、6位の日韓が位置する東アジアが、経済的に重要な地域であることをまず指摘した。
 「東アジアの奇跡」と言われたように、1965年から急速な経済成長を遂げ、一大輸出拠点として成長したことを統計的に説明。フリーダムハウスが発表する政治的自由度の指標からは、日韓台を除く諸国は、依然として「部分的」あるいは「全面的」に政治的自由に制約があるとして地域的特徴を説明した。
 さらに戦死者数統計から東アジア情勢を俯瞰。テロや内戦が多発する中東やアフリカと比較し、ベトナム戦争後の70年代後半以降、ミャンマー、フィリピン、タイ等一部の地域紛争を除き、同地域で戦死者が出ていないとし、「40年間以上戦争が起こらず、平和が保たれている」とした。
 そして戦後日本が同地域でどのような外交政策を取ってきたかを説明。70年代後半までに第2次大戦の戦後賠償及び補償を終え、政府開発援助(ODA)により開発支援を実施。その額はG7のなかでも突出し、特に80年代から開始された中国に対して有償資金協力は3兆円、無償資金協力は1570億円、技術供与は1820億円にも上る額を拠出、経済成長に貢献してきたとした。
 東アジアの不安定要因として、国際秩序に挑戦する北朝鮮、中国の情勢について、長期的な視野から解説。長距離ミサイル発射実験を繰り返す北朝鮮に対し、日本は陸上配備型の迎撃システムである「イージス・アショア」の導入を決定。国連での制裁強化に動き、中韓との関係改善を進めていることを強調した。
 経済成長を背景に軍備拡張を続ける中国が、尖閣諸島沖で領海侵犯を繰り返し、いまや公船を継続的に送り続ける物理的力を保有していることや、南沙諸島における人工島建設にも触れた。
 東南アジア諸国連合(ASEAN)、アジア太平洋経済協力(APEC)、東アジアサミット(EAS)などの多国間枠組みが緊張緩和の機能を果たしていることも指摘。特に、日中韓首脳会談(CJK)の重要性を強調した。
 尖閣諸島の緊張緩和を目的に交わされた14年11月の日中文書、15年には慰安婦問題の最終的解決を目的とした日韓合意で関係を修復。「中韓の内政手続きで、15年以来会談が開催されていない」とするが、議長国日本の再開に向けた取組みを紹介した。
 最後に、田中氏は「自由で開かれたインド太平洋戦略は、一帯一路戦略と共存するものであり、東アジアの安定は保たれるだろう」と予測、「北朝鮮問題は国際社会の協力が不可欠であり、中国に責任ある大国として立場を求めていく必要がある」と締め括った。


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 ジャパン・ハウスでの田中明彦氏講演には、元財務大臣ルーベンス・リクペロ氏、フェルナンド・エンリケ・カルドーゾ財団セルジオ・ファウスト執行長官、国際アナリストで記者のロウリバル・サンタナ氏などの多くの有識者が参加し、活発な質疑応答が交わされた。サンタナ氏は17日午前9時から30分のCBNラジオの番組で、さっそく講演の内容を参照しながら東アジア情勢を解説していた。このような取り組みを通して、歴史認識を含めた東アジア情勢を丁寧に解説していく取り組みは重要だろう。今後、専門家に限らず、もっと一般向け、学生向けにも開かれたイベントをしていっても良いかも。