ドリアという男は野心家だとつくづく感じる。現サンパウロ市長のジョアン・ドリア氏(PSDB)のことだ。昨年末から日系社会代表と110周年事業に関する会議を行い、「市長と4回も会議をやって何の具体的な事業の提案もしてこないのか」と嘆き、「貴方たちはジャポネースじゃないみたいだ」と切って捨てた。
さらにイタリア系コミュニティは400万レアルもお金を集めて子孫の名前が着いた広場を改修したのに、日系社会はリベルダーデ広場改修という市長のアイデアを具体化できないことに怒って、「あなた達はコムニダーデじゃなくて、ディスコンチヌイダーデ(不連続)だ」と言い放った。サンパウロ市誕生400周年祭で日本館を建設して市に寄贈するなど、過去に立派なことをやって来た日系コロニアの有り方が継続していないことを、わざわざ韻を踏む表現で揶揄したと、会議に立ち会った関係者から聞いた。
その関係者は「何が情けなかったって、110周年祭典委員会とか日系5団体とか錚々たる代表者が首を揃えていながら、ドリアの言葉に言い返す者がいなかったこと。仮にも代表なら、相手が誰であろうと、言い返すべきところは言うべき」と悔しがった。
一方、「会議以前にするべき市長への根回し、事情説明が足りない。市長側とのコミュニケーションが圧倒的に足りない。二世のエライ人が揃っていながら、芯のある人材がいない」と日系代表のふがいなさの方を嘆く声も。
唯一、一矢報いたのがACALの池崎博文会長だ。「私が広場改修の費用を集める」と啖呵を切った。
10月の選挙でサンパウロ州知事選に立候補する時に宣伝できるような業績を作ろうとして直々に会議を開いたのに、期待外れに終わったのでドリアは怒ったのか?と勘ぐる声も聞いた。
アウキミン州知事(PSDB)から強い信任を得ているマルシオ・フランサ現副知事(PSB)が知事選に出馬する強い意向を示したのに対抗して、ドリアは圧倒的なPSDBサンパウロ州支部会員の票を得てサンパウロ州知事選の党正式候補になった。
アウキミンとしては大統領選にまで色気を出したドリアを牽制する意味でも、フランサに譲りたい気持ちがあったのかもしれない。だがマリオ・コーバス州知事以来、知事を任じてきたPSDBとしては、党内から知事を出したい意向が勝った。
サンパウロ州知事選の最有力候補2人が揃ってアウキミン支持なわけだから、どっちに転んでも知事には有利だ。「漁夫の利」と言っていい状況にある。
国政レベルで見ても、アウキミンに有利なりつつあると見えなくもない。というのも、テメル政権で「経済立て直しの中心人物」となったメイレレス財相がMDB移籍を決めた。テメル大統領が立候補した場合の副大統領候補になる可能性が高まったと報道されているからだ。
だが、テメル本人には港湾条例汚職疑惑が高まっており、罷免告発第3弾の可能性まで報道されている。そんな現在、ダタでさえ支持が歴史上最低のテメル大統領が、自ら立候補する可能性は限りなく低い。
水面下ではPSDBと手を握り、「アウキミン正大統領候補/メイレレス副候補」という道を探っている気がする。
6月から始まるサッカーW杯ロシア大会関連の番組やCMで、もうじきテレビ画面が一色になる。特にチチ監督率いるセレソンには優勝への高い期待が寄せられているから、普段はサッカーの試合など見ない人までその話題に関心が強くなる。国民の眼がサッカーに釘付けになっている間に、ブラジル政界では着々と総選挙への下準備が行われるはずだ。
ここ数年と違って、今年は3月に大規模なマニフェスタソンがなかった。ブラジル国民はテメル政権の現状に満足しているのか―それともあのマニフェスタソンはテメル側が裏から手を回して、反PTとしてやっていたのか――と穿ちたくなる。
いずれにせよ、W杯が終わると同時に選挙運動が一斉に始まり、10月までそれ一色になる。残念なことに百周年時と違い、7月の110周年はあまりブラジル社会からは注目を浴びそうにない。
選挙に際して日系社会はドリアを応援するのか、しないのか。ドリアは日系人に何を言っても選挙には影響もないと見ている。日本には「奢れるものは久しからず」という言葉もある。日系社会はどうでるのか?―これも総選挙の隠れた見どころか。(深)
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