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ルーラと角栄

7日、連邦警察に連行されるルーラ氏(右から2人目)Marcello Casal Jr./Agencia Brasil)

7日、連邦警察に連行されるルーラ氏(右から2人目)(Marcello Casal Jr./Agencia Brasil)

 4月7日、遂にルーラ元大統領は逮捕され、収賄罪で刑執行となった。過去に政治闘争による大統領経験者の逮捕しかなかっただけに、この一件はブラジル民にとっては非常に大きな出来事だ▼「これを他の国の基準に当てはめたらどうなるのだろう」。そうしたことをふと考える。たとえばこれが隣国アルゼンチンであれば、既に軍事政権時代に大量殺戮を行なった大統領を数人罰している経験があるから、それほどのショックにはならないかもしれない。ましてや、これまで4人の大統領を逮捕し、つい先日も朴槿恵元大統領に対し24年の実刑判決を下した韓国からしたら、ルーラ氏の今回の件などは大したものには映らないかもしれない▼そこでふと思いついたのだが、今回のルーラ氏の逮捕、刑執行について、もっとも理解しやすいのは実は日本なのではないか、という気がしてきている。それはルーラ氏の人となりや人生が、日本が生んだ最大級のカリスマ政治家、田中角栄氏のそれとどことなく似ているからだ▼ルーラ氏も角栄氏も都市部から離れたところで貧困の中で育ち、学歴も小学生までしかない。だが、そこから成り上がりで政界のトップに立ち、ルーラ氏ならボウサ・ファミリアをはじめとした貧困層底上げのための社会福祉政策、角栄氏なら地方の底上げを図った列島改造計画と、それぞれの出自に似合った政策を展開し、国の既成概念を変えた。とりわけ、地方や貧困層には絶大なカリスマだったところも同じ。さらには、そのキャラクターを象徴する特徴的なダミ声の持ち主という点まで似ている▼そして皮肉なことに、政治家としての絶頂で味わった栄光を、汚職で汚してしまったところまで同じだ。ルーラ氏ならラヴァ・ジャット作戦、角栄氏ならロッキード事件だ▼さらに言うなら、政治家の犯罪に対しての国の甘い体質という点でも近いと言える。ブラジルでは前述のとおりで、日本では第二次世界大戦での戦争責任という形を除けば、戦後で目立つ逮捕というのは76年2月の角栄氏のものくらいだ▼そして裁判の決着の付け方でも、ルーラ氏は「第2審有罪で刑執行」という解釈をめぐり、最高裁がてんやわんやした上でようやく実行に移され、角栄氏は1983年10月に4年の実刑判決を出されたものの、「追徴金5億円」という選択肢があったために監獄には入らなかった。もしルーラ氏が日本の政治家なら、おそらくは同じ道で切り抜けられていたのではないか。その2カ月後に行なわれた衆議員選で角栄氏は圧倒的得票数で当選していることを考えると、ルーラ氏が10月の大統領選に出馬できるのであれば「万が一当選」という可能性も▼この「カリスマ政治家をどう裁いたか」で、その後の両国の政治家に対する有権者のモラル意識に差は生まれてくるかもしれない。だが、そのためには、ブラジルは次の大統領選でラヴァ・ジャット作戦の精神を生かせる大統領を選ぶ必要があるが。(陽)