昨年から「refem de Lula(ルーラの人質)」という言葉を、いろいろな政治評論家から聞く。最多の連邦議員を抱える労働者党(PT)が、ルーラを大統領候補にすることにこだわるあまり、他の生き残り策を考えられない様をそう表現している。ルーラは1月時点の支持率調査で35%というダントツ1位を誇った。彼の逮捕後初の調査が15日に発表されたが、それでも31%▼同じ調査で極右候補のボウロナロは17%と2位だが、ルーラ逮捕後もあまり変化がない。16日朝8時台のCBNラジオでジャーナリストのジェルソン・カマロッチは「PT幹部はルーラ逮捕への国民の反発で、ルーラ支持率がさらに上がると読んでいたが、実際は下がった」との情報を明らかにした。さらに「ルーラとボルソナロだけは2年前から実質的にプレ選挙運動を始めていた。左と右が対になってお互いを攻撃して話題を作り、相手の存在を際立たせてきたから支持率が上がった。今回ルーラが逮捕されて片割れがいなくなり、ボルソナロも勢いを失うかも」という興味深い分析を披露していた▼国民の3割を占めるルーラ教信者は「なぜアエシオは刑務所に入らないのに、ルーラだけ逮捕されるのか」(編註=最高裁判決次第で近日中に被告になる可能性も)、「セーラ捜査は進まないに、ルーラ裁判だけ異例の速さで進行するのはオカシイ」という「ルーラだけ悪者扱いされている」との政治迫害説を訴える▼その典型といえるのは、エドゥアルド・ギマランエスが2016年8月11日にwww.brasil247.comサイトに「オデブレヒトがセーラに渡した賄賂は(ルーラが賄賂として受け取ったとされる)三層高級アパート13軒分」として発表したブロクだ▼いわく、反ルーラのメディアはグアルジャーの三層アパートをいかにも〃豪華な宮殿〃のように喧伝するが、実際は215平米の中産階級向け物件。弁護士や医師が買っており、元大統領の収入を考えれば、むしろ「慎ましやかな物件」だと主張▼さらにギマランエス氏は、2016年8月7日付フォーリャ紙が《ジョゼ・セーラは隠し口座を通して2300万レアル受け取ったとオデブレヒトが供述》と報道したのを指し、三層アパートの実勢価格が180万レアルならその13軒分だと皮肉る。《本ブロクがルーラ告発を信用しないように、セーラへの告発も信用しない。人権尊重の民主主義国家において、両件は共に、明確な証拠が出ない限り推定無罪である。ルーラは確たる証拠もなく、疑いや推測だけで告訴されている》と書く。これがルーラ信者の典型的な言説だ▼ルーラはこの厚い支持層の存在に自信をもち、「逮捕されても大統領になれる」との希望的観測を盲信して暴走を始めているかのようだ。「大統領選出馬不可」という判断が選挙高等裁で下された時(その可能性は高い)、ルーラが支持票を他候補に乗り移す時間が十分にないなら、左派全体もろともPTは沈没する。35%という巨大な影響力を乗り移す「Bプラン」が必須だが、今はルーラが許さない。まさにPTは「ルーラの人質」だ▼ルーラが14日に連警に出頭する直前の演説で、脇にいたボウロス(PSOL)やダビラ(PCdoB)を指して「俺が立候補できなくなったらこいつに入れてくれ」とひと言演説していたら、今後の選挙勢力図を大きく塗り替えることになった。その場にいた同じPTのアダジのことには触れないのに、二人のことは「candidatos para o futuro da esquerda(将来の左派の候補)」と控えめに薦めた。でも、あくまで「将来の候補」で今ではない。もしも、「ルーラ逮捕直前」という全国民が注目する劇的な瞬間に、〃最後の遺言〃として後継者指名をしていたら、その影響力たるや…▼もしルーラ票の「乗り移し」ができなければ、35%は散り散りの〃死に票〃になる。そうなったら誰が有利になるのか。宿敵ルーラを失ったボルソナロは息切れをして現状維持の可能性が高く、マリナやシーロら中道左派も伸びこそ見せるだろうが、結局はTVの選挙宣伝時間を一番確保しており、資金力もあるDEM、MDB、PSDBら中道右派政党の候補が一番の〃伸びシロ〃を持っていそうだ。悲しいかな、「テレビ・ネット民主主義」といえる。彼らこそがルーラ暴走を最も喜んでいるに違いない。(深)