アメリカのトランプさんには困ったものだ。新年4日付の本紙に『ラ米で地歩を固める中国、「呪いの壁」で助けるトランプ』の寄稿で、4月に予定の南北アメリカ首脳会議に、同氏はアメリカ大統領として初めて欠席する傾向にある事に触れた。
しかし、暫くしてトランプさんは翻意し、同会議に参加する報道があり、ヤレヤレと安心していたところ、また二転して会議直前になって、トランプ大統領はペルー、リマ市で今月13~14の両日行われた南北アメリカ首脳会議に、最終的に出席しない結果になった。
これは、ラテン系の人々及びラテンアメリカ諸国に対する、トランプ大統領の多くの侮辱行為の一つに他ならない。
トランプ支持者は、目下のシリアの情勢危機は、ラ米地域の会議よりも重要だと主張する。
他方、批判家は大統領最近の不詳事件に関連し、FBI・連邦捜査局がマイケル・コーエン大統領顧問弁護士の家宅及び事務所を一斉捜査したスキャンダルから世論を逸らすために、トランプがシリア危機の問題を、人為的にエスカレートさせているのだと言う。
そこで、トランプ大統領は、シリア情勢推移を自身でモニタリングするために、ワシントンに滞留する必要があるとする、白亜館筋の主張は一種の言い訳に聞こえる。
アメリカの大統領は外遊中でも、常に危機問題の緊急対策に当っている。
例えば、オバマ前大統領はリビア問題を抱えながらも、2011年にブラジル国を公式訪問した。そして事実、南米訪問中にリビアの爆撃攻撃を命じた。
更に言えば、各国大統領は首脳会議の場を利用して、国際情勢上の自国の立場を守り、主権や権利を主張する。
トランプのラ米軽視・侮辱を否定し、信じない者は、単純に次の事実を認めない事だ。即ち、
★トランプは、3年毎に開催される、南北アメリカ首脳会議が1994年に創設されて以来、今回初めて出席しなかったアメリカ大統領である。
この機会に、多くの人達はベネズエラ独裁政権に対する厳正な声明文の採択、発信にトランプの会議参加が決定的な影響をもたらさん事を期待していた。
だが、マイク・ペンス副大統領が代理で出席した。大統領と副大統領の重みは全く違い、これでラ米諸国のリーダー達の受けたメッセージは、ベネズエラ問題はトランプにとって二の次の話しだと言う事だ。
★トランプは、嘗て長年の間、就任初年度中にラ米を訪問しなかった最初のアメリカ大統領である。
オバマ及びジョージ・W・ブッシュの前・元両大統領は、メキシコとカナダを優先的に訪問した。
一方、トランプは先ずヨーロッパへ外遊した。
★トランプが、自国に距離は比較的近いラ米地域諸国の訪問を怠っている間に、中国の習近平国家主席は、ここ4年間に、既に4度もラ米に来訪している。
★トランプ及びペンスも、更にレックス・テイーラソン前国務長官もワシントンに所在し、国務省から車で7分も掛からないOAS・米州機構本部で、ベネズエラ問題が討議された外相会議にも決して出席する事はなかった。
★トランプは、国務省西半球局次官補に、1年以上も経った今日、キンバリー・ブライエル(Kimberly Breier)女史を、この度ようやく任命した程に、ラ米関係に無関心である。
そして、同次官補の任命は未だ連邦議会の承認待ちである。
★またまた、トランプは、最近エルサルバドル及びハイチ、それにアフリカ諸国は「くだらないクソの国々」だと評し、加えてメキシコは世界で暴力のランキング一位を占める国だと、誤った評価を行い、扱き下ろした。
★トランプは、日常ラテンアメリカからの移住者は、最近10年来不法入国者は増えず、かつこれ等の犯す犯罪率は生来のアメリカ人よりも、実際は低いにも拘わらず、多くの犯罪や麻薬問題を犯す前科者だと決め付けるのだ。
★トランプはメキシコとカナダ夫々との自由貿易協定の破棄を迫る他、メキシコ、ペルー及びチリが加盟するTPP・環太平洋経済連携協定からも撤退した。
確かに、トランプ大統領が南北アメリカ首脳会議に参加はしなくても、この世が終わる程の騒ぎではないだろう。
しかし、今回の会議はトランプの傲慢と人種差別主義のイメージを好転できる絶好のチャンスだった筈だ。
そして、アメリカにとって近隣諸国は重要な存在で有る事を理解している事を充分に示し、メキシコ及び中米諸国の繁栄は、即ちアメリカの国益にも益する事、しかして、アメリカがラ米諸国との協力支援を語る時は、真摯にベネズエラのデモクラシー体制への復帰を提唱するものである事実を世論に徹底さすべきであった。
トランプ大統領は折角のこの良い機会を逃し、改めてラ米地域に対する侮蔑・軽視の愚を刷新したと言わざるを得ない。
(註・本稿は4月13日付ABC紙に載った、在マイアミ市コラムニスト、アンドレス・オッペンハイマー氏の寄稿記事を参考にしたものです)。