17日、最高裁は民主社会党(PSDB)のアエシオ・ネーヴェス上院議員に対し、収賄容疑で裁判の被告人となることを告げたが、これにはつくづく「裏切られた」という思いでいっぱいだ▼その理由のひとつは、やはり彼が「次の大統領」に最も近い存在だったからだ。「10数年継続した労働者党(PT)政権をストップさせるのは彼しかいない」。少なくとも2014年の大統領選のときにそう信じた人は多かった▼ジウマ氏との2人で行なわれた決選投票の結果は、ジウマ氏の51・64%に対してアエシオ氏は48・36%と実に僅差。しかも選挙キャンペーン時には、他候補の足を引っ張るジウマ氏やルーラ氏の悪役的な言動が目立ったため、紳士的に戦ったアエシオ氏への同情も多かったものだ▼それから約2年後のラヴァ・ジャット作戦や景気後退の混沌の中で、当選したジウマ大統領は罷免に追い込まれた。この時点まではまだ「18年のアエシオ政権誕生」を思い描く人も少なくなかった▼だが、17年5月に起こった「JBSショック」が彼の人生を天国から地獄へと変えた。JBS社主のジョエズレイ・バチスタ氏の甘い言葉に乗り、簡単に収賄に乗り、その支払い方法の手はずをつける会話をまんまと簡単に録音されてしまった▼ルーラ氏やテメル大統領の民主運動(MDB)の政治家らが、隠し口座や複数の仲介人、現金代わりの高級物品などを介す形の高度な贈収賄工作を働く中、アエシオ氏のこの行為は驚くほどに脇が甘く、来る選挙で大統領を狙う人とはとても思えなかった▼18年の大統領選が現在、先行きが見えないほどに混乱しているのは、復活を狙ったルーラ氏のスキャンダルももちろん大きくあるが、アエシオ氏のこの呆れた失態も火に油を注いだことはたしかだ▼そしてアエシオ氏がもうひとつ汚したもの。それは「ネーヴェス家の威厳」だ。同氏の祖父は、あのタンクレード・ネーヴェス氏。1985年1月に行なわれた軍政最後の議会選挙による大統領選で、民主政権復帰の代表として出馬して軍政派候補に勝利し軍事政権を終わらせた、ブラジル政治史の英雄のひとりだ▼そのタンクレード氏は、民主政権復帰後初の大統領就任直前に突然の病に倒れ、そのままこの世を去った。いわばブラジル政治史上に残る最大級の悲劇のヒーローだ▼そんな「民主政治の象徴」的存在を祖父に持ち、彼が果たせなかった大統領の夢を、政界の混乱に終止符を打つ形で果たす。一族の夢としては実に美しい道のりを歩むこと。それは半ば叶いかけたものでさえあった。だが、そんな名家の「おぼっちゃん」らしいともある意味で言えるのん気さ。これが無残な転落を招いてしまったか▼「未来への希望」も「輝かしい遺産」も、軽率な行動一つで瞬く間に失ってしまったアエシオ氏。最高裁で有罪となれば、再度の大統領選挑戦どころか、現在の職務である上院議員から罷免される可能性さえ出てくる。苦しいことに、同氏が現在抱えている裁判案件はこれだけでなく、ラヴァ・ジャット関係で10近く存在する。奇しくもその数は、自身が打倒しようとしていたルーラ氏が抱えているそれとほとんど変わらない、というのも何とも皮肉だ。(陽)