25年前、二天はサンパウロ市内の教会の大広間を借りて始まった。初めは生徒2人だけだったが、雑誌で取り上げられ、日本文化や武道に関心を寄せる人たちが段々と集まってきた。
2つ目の支部を設立したのは創立4年目の1997年、リオ・グランデ・ド・スル州都ポルト・アレグレだった。当時、サンパウロ州外から稽古に参加する生徒が数人いて、ポルト・アレグレ在住の生徒はバスで20時間かけて通っていた。
支部設立後は、その生徒が指導者になり、各所でデモンストレーションを披露するなどの広報活動を行って生徒を増やした。その後は、2000年にリオデジャネイロに支部を作ったのを皮切りに、全伯各地に支部を新設した。
転機は、2004年にサムライの生き様をテーマにしたハリウッド映画『ラスト・サムライ』が大ヒットを記録したこと。国内で一気にサムライへの関心が高まった。
そんなとき、著名な司会者ジョー・ソアレスの人気トーク番組『Programa do Jo』に岸川さんが呼ばれ、日本文化や武士道を紹介すると、関心を持った視聴者からの問い合わせが殺到した。
岸川さんは「事務所に設置していた2台の電話機がひっきりなしに鳴って大変でした」と振り返る。この年に生徒数はそれまでの2倍以上の400人に増え、新たに8つの支部を新設。初めての国外支部がアルゼンチンにできた。医者との二足の草鞋で多忙を極めた岸川さんは医者の仕事を減らし、二天の活動に注力するようになった。
このように映画『ラスト・サムライ』や吉川栄治の小説『宮本武蔵』(ポルトガル語版)など、サムライを題材にした作品がきっかけとなって二天に通い始める生徒は多かったが、さらに漫画やアニメが加わった。
ルシアナ・リマさん(33)は『バガボンド』や『るろうに剣心』など、サムライや刀が登場する漫画のファンだ。日本文化と関わりのあるスポーツを探していたときにインターネットで二天を見つけた。「『これだ!』と思ったわ。刀を使うのがかっこよかったの」と話す。
実際に始めると、漫画との違いに気づいた。「漫画は戦って勝ってお終い。でも、二天は成長することを目指している。だから、みんな試合に勝っても負けても気にしない。その試合から何を学んだかが大切だから」。
さらに「最近は友人たちを二天のイベントに誘っているわ。刀を扱う姿を見て『すごい』と言ってくれます。でもその後いつも『かわいくない』とか『女の子がやることじゃない』とか言われる。理解されるのは難しいかもしれませんね」と笑って話した。
平林靖裕さん(50、熊本県)は二天でただ一人、日本から来た企業駐在員だ。ブラジル駐在3回目で、二天には2年前から通っている。「もともと日本古来の文化や剣道に興味があって、調べてみたら二天にたどり着きました」と言う。
平林さんはブラジル人が二天に惹かれる理由を、岸川先生が説く「人生の教え」にあると考えている。「先生が言うことは正当なものだし、とても指導熱心。サムライの話だけでなく、『携帯で遊んでばかりいるな』などと現実生活のことも言う。ブラジル人にとって、そういった倫理観が新鮮なのかもしれません」と話した。(つづく、山縣陸人記者)