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あと30秒あったら助かっていたのに

昼になっても延焼が続く崩落現場で消火作業をする消防士たち(Foto Rovena Rosa/Agencia Brasil)

昼になっても延焼が続く崩落現場で消火作業をする消防士たち(Foto Rovena Rosa/Agencia Brasil)

 1日未明、サンパウロ市中央部で起きた24階建てビルの火災は、あっという間に世界中に知れ渡った▼米国NYでの9・11テロを思い出させる衝撃的なビル崩壊映像に加え、今回の火災では、隣のビルに駆け上った消防士が、件のビルの9階から「助けてくれ」と叫んでいた男性を救助する寸前に建物が崩れるという、悲劇的な場面もTVで流れた。リカルド氏は周りが止めるのを振り切り、残っている人を救うために火の中に飛び込んで行ったが、火に囲まれて逃げ場を失った。電気も切れて真っ暗な中、動きがとれずにいた高齢者らを下に逃がしたりしたが、「助けてくれ!」という叫び声を聞いてまた戻ったというのだ▼彼を救助しようとした消防士は、救助用のロープなどを装着させたが、あと少しという場面でビルが崩壊。上の階の瓦礫の重みで救助用ロープが切れたと言う消防士は、「あと30秒あったら」と臍をかんだ。互いに顔を見合わせる事が出来る距離にいたのに、ビルが足元から崩れたため、二人の間の距離があっという間に広がり、瓦礫が瞬時にその姿を覆ってしまったのだ▼幸い、ビルが横倒しに崩れるという事態は避けられ、周辺への被害は比較的小さく済んだが、それでも、左隣のルーテル教会や、右隣のビルなどは延焼、一部崩壊を免れ得なかった。行方不明者は49人ともいわれているが、実際に火の中に飲み込まれた事がはっきりしているのは、リカルド氏を含む4人程度だという▼自らを省みず、他者を救おうと火中に飛び込んだ英雄に救われた人々や、彼を救おうとしたがあと少しで叶わず、臍をかんだ消防士らが、彼の最期を忘れる事はないだろう。(み)