「我々は全米のどの地点へでも到達可能な弾道弾ミサイルを持っている」――北朝鮮の金委員長が誇示しました。すると、「何を小癪な鼻ったれが。その気になればお前の施設などはいつでもぶっ壊せるぞ」と強面のトランプさんが応えました。
マスコミ(新聞、TVなど)の報道でしか状況が分からない一般市民は、「ヒエー、こりゃ大変だ! ミサイル弾の撃ち合いになったら、日本なんか一たまりもないぞ」大いに心配になりました。
それが今年3月、その北朝鮮の金さんが、「我々は核兵器の開発をやめる用意がある。但し、我々の体制を続けられる保証が条件だ」と声明したのです。アメリカのトランプ大統領の反応は素早い。あまり期間をおかず、「この問題につき金書記長との会談に応ずる用意がある」と提案を受け入れたのです。
1950年代、北朝鮮と米軍は(南韓軍と共に)戦火を交え、停戦の後もそのままずっと国交も無かったのですから、これは衝撃的ニュースとなり直ぐ世界に広がりました。
「では二人は何時、何処で会うの?」と世界の注目を集めているその米朝首脳会談、ここ数日中に摘要が発表されるはずですが、一体、北朝鮮の核兵器廃棄、南、北朝鮮の平和条約締結、それから先はどうなるのか? 直ぐ隣に在って朝鮮半島にも関係の深い日本はどう対処したら良いのか? 以下、皆さんと一緒に考えてみましょう。
▼平和条約は結べるか
4月に入って南の文大統領と北の金委員長の首脳会談が行われると、それまでのマスコミの論調が大きく変わりました。今にも朝鮮平和条約が締結されるような雰囲気が出て来たのです。
北朝鮮の金政権はそれまで、「先ず軍備を充実し外敵侵攻に備えよう、民生はその次だ」という〃先軍政治〃を行い、一般大衆の生活も犠牲にして来た訳ですから、ここに来て急に核兵器開発を止めると言われても、「それ本心? 生活に苦しくなって、外からの援助を得るための偽装じゃないの?」と疑いの目も向けられているのです。
一方、アメリカのトランプさんは、「米国としては北朝鮮に対して何も譲歩はしていない。会っては見るが相手の話に真実味が無ければ、そのまま本件破談ということもあり得る」と公言しております。60年にも亘る南北の対立状態を終わらせる「平和条約」が結べる条件があるのか、ここで一先ず、両当事国の実力の程をチェックして見ましょう。
別表をご覧ください。まず国土の大きさはほぼ同じですが、人口となると韓国の方が北朝鮮の約2倍ほどあります。そして一人当たりの国民所得を比べると、韓国が北朝鮮の22倍ほどもあります。
昔は一つの国だったのに、随分大きな違いがあるものです。
この北朝鮮の国民所得は日本で言えば鳥取県か高知県あたりなるとのことですが、そんな経済力で世界一の大国、米国と武力で対抗しようとしたのかと、感心すると言えばよいのか、呆れると言えばよいのか、うまい言葉が見つかりません。
この武力偏重の政策が正しかったのかどうか、何れにしてもその為に犠牲を強いられた一般国民は大変だっただろうと察せられます。
それはさて置き、地元当事者―南・北朝鮮共に対立終結、平和条約締結を望んでおり、その後ろ楯であり、朝鮮戦争参加者でもあった米・中両国がそれを認める方向のようですから、朝鮮半島非核化を条件として平和条約は締結の方向で進むと見て良いでしょう。
▼統一朝鮮は出来るか
朝鮮平和条約が出来たら、次は韓国と北朝鮮を一つの体制、国とする朝鮮統一国家が出来るか、です。
ドイツの場合は東西ドイツが合意し「ベルリンの壁」を打壊して一挙に統一ドイツが出現しましたが、朝鮮の場合では中々そうはいかないのではと考えられます。
民主主義、自由経済の韓国と全体主義、統制経済の北朝鮮の体制をどう統合するかの問題を別にして、ここでは統一朝鮮の場合の実生活面をチェックしてみましょう。
統一朝鮮国が出来、情報、交通が自由化された場合、まず北鮮から南韓への大量の人の流れが生ずるでしょう。
今まで「欲しがりません勝つまでは」と窮乏生活を強いられて来た北の貧しい人達は、高い給金が貰えてうまい物も食べられる韓国側に生活の場を求めるようになります。
北の地方、山村などではブラジルのノルデステの様に成人は南の都会へデカセギに行き、地元には老人子供ばかりとなりさびれます。南の方としても職業能力知識もない人たちに大量に、それも大都市に集中して来られては扱いに困ります。種々の摩擦で社会問題が起こるでしょう。
そういうことで、一挙に南北統一してと言う事でなく、取り敢えずは韓国も北朝鮮も文大統領、金委員長の現体制のままで続け、この2体制が「朝鮮連邦」という形をとるのでないでしょうか。
それでも今まで閉ざされていた鉄道、幹線道路などは直接連結されて便利となり、離散家族などの往来も自由に出来るようになるでしょう。日本の拉致家族の問題は日本と北朝鮮の2国間で解決となるのでしょう。
それでは南、北それぞれの後ろ楯国(PADRINHO)、関係国の立場はどうでしょうか。
米国にとっては、北が核・長距離ミサイルの開発を放棄してくれれば、まず懸案のひとつは解決する。当事国の経済発展のために先進国米国はいくらでもやれる事がある。それに実利面で言えば、ここで米国が大物らしい寛容さで北鮮を平和国家に囲い込めば、立派な業績になる。
「トランプは形破りのことを言うけど、問題を解決する男だ」との名声をはくして、直近の選挙で有利になろうというものです。誰だか「トランプさんにノーベル平和賞を」と言い出したようですが、世の中、随分気の早い人がいるものですね。
中国にとっては、朝鮮戦争で北朝鮮軍が韓米軍に追い詰められた時、中国は義勇軍名目で軍隊を派遣し、韓米軍を今の38度線境界線まで押し戻しました。中国としては今後とも北朝鮮のようなクッションが国境に有った方が良いし、自国の意向を汲んでくれる同盟国を減らしたくはないでしょう。復興需要の見込まれる朝鮮との交易拡大も中国にメリットです。
北朝鮮、韓国、米、中4国は今回の平和合意の直接の関係国となり、今後のこともこの4国で種々協議しましょう、と言っています。
ロシアにとっては、社会主義体制の元祖であり、アメリカにも睨みを利かせられるロシアが今回の話に大きく関わっていない様です。これでは大国としての沽券に関わると思ったのでしょうか、プーチンさん、「朝鮮和平取り決めにロシアを忘れは困る。俺らも一役かうぞ」と声を出しています。
日本にとっては、北朝鮮による核攻撃の脅威が取り除かれれば「弱武力国家日本」としてはこんな有り難いことはない。大枚をはたいてミサイル防御設備などを設置しないで済むかもしれない。
ここは素直に「核武装放棄大賛成、平和統一おめでとう」と言って皆の仲間に加われば良い。なのに「(北鮮は約束を踏みにじる、信用出来ない)約束をきちんと実行するまで、厳しい制裁を続けよう」と嫌われおじさんみたいなことを言っている。
本当はその通りにしても、何も大声で皆に告げまわることはない。「半島非武装、平和成就」の大勢に水をさしたいのか、と糾されます。
他の関係諸国はそんな事は先刻ご承知で、それでも成果の方が大きいから前に進んでいるのです。条約などはそれを守らせるよう関係者が努力すべきもので、その上であぐらをかいていては、その時の都合で廃棄される、これが現代世界の常識でしょう。
▼日本はどうしたら良いか
前述の様に、朝鮮問題解決の決定打となる米・朝首脳会談が今月中にも実現しそうです。この舞台の主役となるトランプさん、金さん、共に個性の強い人として知られているので、その会談結果がどうなるのか、中々予測は難しいところです。でも今までの声明、動きから判断すると、今度は前向きに動き出すと考えられます。即ち――
★南韓・北朝鮮・米・中で平和条約を締結する。
★朝鮮半島での核兵器、ミサイル弾装備を廃棄する。
★朝鮮人自身による政治体制を尊重し、半島の平和を確保する。
そんな主旨の声明を出してこの地域の平和、ひいては世界の平和を齎す方向が示されると思われます。
そうなったら日本は、前述のような視野の狭いシケタことは言わず「朝鮮和平大賛成、大いにやりましょう。日本は昔から朝鮮とは深い関係があり、直ぐ隣でもあります。日本は全面的に協力致します」と表明します。米、中、ロ等と並んでこれを大いにお祝いするのです。
北朝鮮が鎖国状態から開放され、今まで遅れていた民生部門の充実・インフラ部門の整備などが行われれば、そこに大きな需要が生まれます。
色男かどうかは知りませんが、金も力も持った日本が北鮮「復興」に寄与出来ることは大有りです。
更に、これは大分先のことになるでしょうが、北朝鮮が自国経済発展のために、外国資本、技術の導入を図るようになります。日本はこれに大いに参加、進出するのです。一般民生事業では南韓、中国などとの競合も生ずるでしょうが、日本も負けずにやるのです。
特にレアアースなどの北朝鮮にある資源を現地で精製加工してその製品を日本にも輸出するような事業は、日本の特色を発揮出来る好適分野と思われます。工場建設して地元に職場を与え、新しい技術をもたらし、現地発展に大きく貢献出来ます。
こうして北朝鮮の一般庶民の民度が向上し、日本朝鮮間の交流も拡大すれば皆が豊になれます。そして、日本、朝鮮のみならず、東アジア、ひいては世界の発展、平和に貢献出来ることに成ります。
平和標榜国日本のやりがいのある仕事として、力を注ぎたいものです。(皆様のご意見を歓迎します。あて先は=hhkomagata@gmail.com)