6月18日。毎年この日が来ると、私は決まって身の引き締まる思いがいたします。
特に今年は格別な思いで、この日を迎えました。なぜなら皆さんごも存知の通り、初めてのブラジル日本移民781名を乗せた笠戸丸がブラジルに到着してから、110年という節目の年であるためです。
この日を迎えるに当たり、まず思いを馳せるのは、全く異なった気候や風土の原始林に分け入り、過酷な自然、疫病、幾多の困難と戦いながら亡くなっていった戦前移民の先駆者に対してです。
当時マラリヤなどに対する知識も無く、医者や十分な薬もないまま、次々と尊い命が失われていく状況に身を置いた人々の気持ちは想像に絶します。また、先立つ方も、愛する家族を守ることができず、自分がいなくなったらこの家族はどうなってしまうだろうかと、どれ程の心配を残しながら逝かなければならなかったでしょうか。
この双方の筆舌に耐えない気持ちを思うと、胸が締め付けられます。今日この移民の日において、何より開拓先没者の御霊に対して心より哀悼の意を表します。
ところで私ども戦後移住者はブラジルの習慣や言葉にすぐ慣れ親しみ、まるで元々ブラジルに生まれ育った者であるかのように、この地に愛情を持つまでになりました。
ここブラジルは、我々日本人だけでなくそれ以外の国々からの移民も受け入れ、根づくことを許容してくれた寛容な国であります。そんなブラジルは特に我々日系移民に対して深い信用と友愛を持っています。
それは多くの先駆者がどんな状況下でも「誠実」であり続けたからこそだと存じております。このように先駆者が築き上げてくれた信頼の基盤があるからこそ、現在の日系社会がある事に対し心から敬意を表すると同時に、私たちを受け入れてくれたブラジルに対しても、今日この移民の日において感謝の意を表したいと思います。
さて、このように移民110周年を迎えた本年、より特別に感謝の意を表するべく7月21日に眞子内親王のご臨席の下挙行されるブラジル日本移民110周年記念式典が、いよいよ間近に迫ってまいりました。
この式典を真心のこもった素晴らしいものにしていきたいと現在準備を進めておりますが、それは皆様のお力添えがあってこそ現実のものとなります。是非とも、ご指導、ご協力の程、宜しくお願いいたします。
最後になりましたが、ニッケイ新聞をご愛読の皆様のご健勝を祈念し、移民の日における私の挨拶とさせていただきます。