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日本代表、酷評覆し大健闘=独自のプレースタイル発見=収穫の多いW杯ロシア大会=サンパウロ市在住サッカージャーナリスト 沢田啓明

1次リーグのセネガル戦の様子(RFS RU)

1次リーグのセネガル戦の様子(RFS RU)

 日本代表のワールドカップ(W杯)ロシア大会が終わった。
 1次リーグを1勝1分1敗(得点4、失点4)のグループ2位で突破したが、2日に行なわれた決勝トーナメント1回戦(ベスト16)のベルギー戦で2―3と惜敗した。
 日本は1998年から6大会連続で出場しており、ベスト16に残ったのはこれが3度目。つまり、実力は1次リーグ敗退(ベスト32)とベスト16のちょうど真ん中あたりということになる。惜しくも史上初のベスト8入りを逃したが、色々な意味で収穫の多い大会だった。
 W杯開幕前の状況までさかのぼり、この大会における日本の試合内容の総括、今後の課題などを考えてみたい。
 日本はW杯アジア予選をグループ首位で勝ち抜いたが、昨年10月以降の強化試合で強豪国には完敗し、W杯出場を逃した国にもなかなか勝てず、お先真っ暗の状況にあった(この時点で、私は日本のW杯1次リーグの成績を1分2敗と予測していた)。
 今年4月初め、日本サッカー協会はハリルホジッチ監督を解任し、それまで協会の技術委員長を務めていた西野朗(1990年後半から2010年代中盤までガンバ大阪などを率いた)を後任に指名。この決断に対して一部のメディアやファンから批判があり、事情をよく知らない外国メディアからは「日本代表は危機的状況にある。W杯での好成績な望めない」と酷評されていた。
 監督が西野朗に替わっても、当初、日本は強化試合で全く勝てなかった。
 しかし、W杯開幕2日前のパラグアイとの強化試合で従来の控え組を出場させたところ、MF柴崎が効果的な縦パスでチャンスを演出し、MF香川とFW乾の元セレッソ大阪コンビが見事な連携で得点にからみ、守備もCB昌子が高さと強さを発揮して快勝。大会直前になって、初めて光明が差してきた。
 ハリルホジッチ監督時代の日本は、縦への攻撃を急ぐあまり、従来のショートパスをつなぐスタイルが崩壊していた。
 しかし、西野監督はコンパクトな布陣で、選手たちが優れた技術と豊富な運動量を発揮し、攻守両面で組織的にプレーするスタイルへの転換を試みた。個人能力の単純な総和では世界の強豪にかなわないが、組織力とチームとしてのまとまりで互角以上の戦いに持ち込もうとしたのである。
 この戦い方は、チームワーク、献身性、粘り強さといった日本人の特長とも合致している。とはいえ、日本のFIFAランキングは61位で、1次リーグで対戦する相手はすべて日本よりもランキングが上。劣勢は否めなかった。
 6月19日、1次リーグ初戦で南米の強豪コロンビアと対戦。このグループでは最強の国で、この試合で勝ち点を取れないばかりか大敗を喫するようなら、敗退が濃厚となる可能性もあった。
 しかし、前半3分、香川のシュートをペナルティエリア内でコロンビア選手が手で止める反則があり、この選手は一発退場。日本はPKをもらって数的優位に立つという望外の幸運を手にした。香川がPKを決めて先制し、その後、コロンビアにFKを決められて追いつかれたが、左CKをCF大迫が頭で決めて勝ち越し、2―1で2大会ぶりの勝利をあげた。
 続くセネガル戦では相手選手の驚異的なスピードとパワー、恵まれた体格に苦しんだが、二度先行されながら粘り強くプレーしてその度に追いつき、2―2で引き分けて貴重な勝ち点1を手にした。この時点で、グループの首位に立った。
 1次リーグ最後のポーランド戦で、西野監督は選手の疲労を考慮して先発メンバーを6人入れ替えた。しかし、新たに加わった選手が精彩を欠き、ポーランドに先制を許してしまう。同時刻に別会場でコロンビア対セネガル戦が行われており、後半、コロンビアが先制したので日本は2位となった。
 日本がポーランドに0―1で敗れ、コロンビア対セネガル戦が1―0のまま終了すれば日本はグループを2位で通過できることから、終盤、西野監督は選手たちに最終ラインでボールを回して時間稼ぎをするよう指示。
 ポーランドはすでに敗退が決まっており、名誉のためにスコアはともあれ勝利が必要だったのでボールを追うことはせず、試合はそのまま終了。
 コロンビア対セネガル戦も1―0のまま終了したため、日本のグループ2位とベスト16入りが決まった。
 ただし、コロンビア対セネガル戦でもしセネガルが得点していたら日本は敗退していたところだった。個人的には、日本は失点したり警告を受けるリスクを避けながら得点を狙って攻撃するべきだったと考えている。
 決勝トーナメント1回戦では、FIFAランキング3位の強豪ベルギーと対戦。前半を0―0で折り返すと、後半開始早々、MF原口と乾の見事な得点で2―0とリードした。ところが、その後、空中戦の弱さを突かれて連続失点を喫し、追加タイムにも日本のCKから逆襲されて得点を許し、2―3の大逆転負けを喫した。
 この大会を通じて印象に残ったのは、これまで監督が替わる度にプレースタイルを大きく変更していた日本が1次リーグでの試合を通じて固有のプレースタイルを〃発見〃し、ポーランド戦を除く3試合でそれを実践してみせたことだ。
 このスタイルは、現時点でもコロンビア、ベルギーのような強豪国にかなりの程度通用した。運動量、チームとしてのまとまり、選手の戦術理解度などの点では、すでに世界的なレベルにある。今後はこのスタイルを突き詰め、テクニック、フィジカル能力、戦術眼などをさらに向上させていけばよい。
 現在の日本代表の選手の大半はドイツ、イングランド、スペイン、フランスといった欧州のトップリーグでプレーしている。しかし、所属クラブの多くは中堅以下であり、さらに個人能力の高い選手を育ててビッグクラブへ多くの選手を送り込みたい。
 今後、日本のフットボール界が選手育成にさらに力を入れ、日本代表のどのポジションにも世界のビッグクラブで活躍する選手がいるようになれば、W杯で今回惜しくも逃したベスト8以上の成績を残すことは十分に可能だ。ベスト8以上の常連になれば、いずれは優勝を狙うこともできるはずだ。
 大会前は国内外で酷評されていた日本が、大方の予想を覆す好結果を残したのは見事だった。
 とはいえ、冷静に分析すれば、世界の強豪国との差はまだ大きい。今回の成績に浮かれることなく、地に足を付けて強化に励み、4年後のカタール大会でさらに成長した姿を見せてもらいたい。