米国のトランプ大統領が導入した特定国や特定商品への高関税という保護貿易政策と、中国がそれに対抗して取った米国製品への高関税政策という貿易戦争で、ブラジルが恩恵を被っている。
その一つは大豆だ。大豆は米国の主要輸出品目の一つで、中国が米国産大豆に高関税を課した事で、ブラジル産大豆に対する需要が増えた。
専門家は、ブラジル産の商品の中には短期的に貿易戦争の恩恵を受けるものがあるが、中長期的に見ると、この貿易戦争は世界経済にマイナスの影響を及ぼすという。
ジェツリオ・ヴァルガス財団のフェリッペ・セリガッチ氏は、貿易戦争で、米中両国の経済成長が本来の姿より小さくなり、他国経済にも影響が及ぶとし、「ブラジルにとっても他国にとってもマイナス。最終的にはこの戦争で真の恩恵を受ける国は皆無だ」という。
ブラジル産大豆も、中国側の需要増加で当面の輸出は増えるが、シカゴ市場での大豆相場は低下傾向にあり、欧州市場に売り込むには不利になるという。「ブラジル産の大豆価格が上がれば、豆カスも高くなる。そうすれば、欧州はより安い米国産の豆カスを買い始める」というのだ。
ワシントン駐在大使も務めたルーベンス・バルボーザ氏も、「このままではコモディティ価格が上がり、ブラジルも含む世界各国に影響が及ぶ。米中という二大経済大国間の貿易戦争は経済成長を妨げ、貿易を縮小させる」と見ている。
ブラジル中国商工会議所のシャルレス・タンギ氏は、「当面はブラジルやアルゼンチン、オーストラリアといった国が中国の需要を満たす事になるが、長期的に見ると、世界経済はバランスを失い、全ての国が負の影響を受ける」という。
同氏によると、ブラジルは中国に5千万トンの大豆を輸出しているが、米国から輸入していた4千万トン分をブラジル産大豆で賄うには、現在の輸出量をほぼ倍増する必要がある。同氏は「中国は初めて、米国産の品の供給が不安定になるという事態に直面した。これにより、中国国民は、この不安定さは非常に危険なものだと再認識している」とも述べている。
ブラジル工業開発庁のロジェリオ・アラウージョ氏は、「ブラジル市場は米中の貿易戦争で生じた貿易拡大のチャンスを活かすだけの準備が出来ているが、この貿易量増加を効果的なものとするには投資が不可欠だ」と忠告する。「開発や、世界的に成長している生産部門に焦点を当てた投資を拡大しなければ、この機会を本当に活かす事は出来ない」「高品質のサービスと工業とか、工業と農業のように、複数の分野を連結させる事も必要だ」と説いた。
フランスのル・モンド紙は、「ブラジルは米中戦争で大きな恩恵を受けた国」との表現で、ブラジル産大豆の輸出が伸びた事や、ブラジル産大豆の取引価格がシカゴ市場の相場を上回っている事を報じた。一方、ウオール・ストリート・ジャーナルは、ブラジルは確かに恩恵を受けているが、一国で中国の需要の全てを満たす事は不可能との見解も明らかにした。(12日付アジェンシア・ブラジルより)