7月31日、エーリオ・ビクード弁護士が亡くなった。2016年のジウマ前大統領の罷免請求を作成した主要弁護士だ▼コラム子自身もそうだったが、あのジウマ氏の罷免はあくまで「腐敗権力の打破」であったことを望んでいる。キャンペーンで対抗馬に卑劣な言葉ばかりを吐き、選挙当初から不正が疑われるような状態で当選し、二期目の政権がはじまってみたらラヴァ・ジャットでの労働者党(PT)での疑惑が次々と明るみになり、国の財政は出口の見えない不況に転落。さらには、逮捕されそうになったルーラ氏を権力を使って助けようとまでした。いくらジウマ氏自身の直接的な罷免の理由が「財政管理法」というわかりにくいものだったとは言え、支持率もどん底まで落ち込んだジウマ氏の大統領継続は、国民の目線で見ても支持しがたいものになっていた▼罷免そのものも、あくまで法的なプロセスを遵守しながらやったことで、ジウマ氏がやたらと連呼した「ゴウピ(クーデター)」とは言えない。ただ、PT以上にラヴァ・ジャットでの不正が噴出していた民主運動(MDB)の長だったテメル氏が、副大統領であったにもかかわらず、法的な継承権を利用して大統領を裏切る形で罷免を進めたことで、この罷免はときに「権力闘争」との見方もされてきた▼単純に「不正を償ってほしい」だけで別にPTが憎いわけでもないニュートラルな立場からすれば、あの罷免が、「政治権力的下心」で起こったものとは思いたくない▼それはビクード氏自身のことを考えてもそうだ。同氏はそもそもPTの立ち上げに参加した人物で、同党の政治家として下院議員も2期、サンパウロ市副市長も一期つとめたような人物だ。そんな彼が、「権力に甘え堕落したPT」にお灸を据えるような形で罷免請求を作った。それだからこそ、説得力を持ったと思っていた▼ところが、その罷免請求作成に参加したもうひとりの弁護士、ジャナイーナ・パスコアル氏は今年、社会自由党(PSL)に入党した。今回の大統領選の極右候補ジャイール・ボルソナロ氏の政党だ▼ジャナイーナ氏はジウマ氏の罷免の課程において、感情が高まると長い髪を振り乱して芝居がかった演説を行なうことでひときわ有名になっていた人物だ。PSL側もその知名度と、「汚職撲滅のヒロイン」のイメージを生かして、政治家経験があるわけでもないのにボルソナロ氏の副候補まで依頼していた。ただし、どうやら副候補の話は流れたようだ▼別にそれがボルソナロ氏でなくとも、他の政党に入党したとしても、「大統領罷免」という行為に携わった司法関係者が、世間の印象もまだ十分熱いうちに特定の政党を支持するのはいかがなものか。ましてやそれが、正反対の主張を持つ政治勢力への合流となれば、「ああ、結局あの罷免は権力闘争に利用されただけだったのか」となるのも不思議はないし、ましてやそれが「ジウマ氏はゴウピにあった」「ルーラ氏だって罠にはめられて刑務所にいるのだ」と信じきっているPT信者の格好の反論材料にもなる。副候補の話を受けていたら、あの罷免にも傷がついただろうし、「ルーラ氏釈放」を求める声も現在の数倍になったであろう▼ジャナイーナ氏のPSL入党をめぐって、罷免請求作成に参加した残りのひとり、ミゲル・レアレ氏は激怒し絶縁状態になったとも報じられている。病床にあったビクード氏はどういう思いだったのだろう。(陽)