ブラジル日本商工会議所(松永愛一郎会頭)が主催する2018年下期業種別部会長シンポジュームが23日、サンパウロ市内ホテルで開催され、215人が参加した。今年の上半期の回顧と下半期の展望を部会ごとに発表するもので、副題は「大統領選を直前に控えて―変化の時期への準備と戦略は」。基調講演は城南大学の川辺純子副学長が「在外日本人商工会議所の活動―アジアを中心に」で、遠路はるばるパラー商工会議所の山中正二副会頭も出席した(1面「樹海」に関連コラム)。
冒頭、松永会頭は「誰が大統領になっても構造改革の手を緩めず、中長期的な経済発展を目指してほしい」と選挙後の課題を語り、カナダや韓国がメルコスルと経済連携締結に向けた交渉をすでに進めている状況を踏まえ「日本メルコスルEPAに向けた努力が期待される」とのべた。
まず金融部会の安田篤部会長は、同部会が半年前に予測したGDP成長率は2~3%だったが現在では1・10~1・50%に下げ、年末為替レート(レアル/ドル)も3・20~3・50から3・60~3・95へとレアル安にしたことを発表。
大統領選の不透明感とトラック運転手ストなどの社会不安が増大したことで経済成長見通しが下方修正され、「失業率は高止まり。本格的な消費回復には時間を要する。景気回復には安定政権による着実な構造改革(年金改革等)が望まれる」と次政権に期待した。
貿易部会の猪俣淳部会長は「足元は不透明感が取り巻く環境。現在の経済状況が続く」とし、為替リスクの最小化を図るためにドル建て仕入れからレアル建てに転換するなどの備えが必要と提案した。
機会金属部会の植田真五部会長は「景気回復のトレンドは確かだが、不透明感は拭えない。しかし、ブラジル政治・経済には変動と先行き不透明感はつきもの、一喜一憂すべきではない」と締めくくった。
自動車部会の下村セルソ部会長は、上期の四輪総市場は前年同期比約114%の約117万台の販売台数を記録し、「2年連続で前年同期越え」と回復基調になることを報告。「日メルコEPA交渉は、先行するEU、韓国に劣後しないような内容を要望。日本政府は早く交渉を始めてほしい」とお願いした。
電気電子部会の日比賢一郎部会長は「耐久消費財市場の回復と自社努力により、上期業績は対前年比でプラス成長」と報告しつつも、「大統領選後のシナリオ不明、最悪を想定した準備」を薦めた。
食品部会の黒崎正吉部会長は「市場全体は16年以降、緩やかな回復基調を継続。アタカドンなど業務用スーパーは好調だが、小売りスーパーが下落傾向にあり、業界の力関係が変化。消費者の低価格志向が強まると同時に、品質へのこだわりが出てきた」と語った。
建設不動産部会の今川尚彦部会長は「やや上向きの景況感」とし、戸田建設がパラグアイ支店を開設した理由として、賃金、電力、法人税、付加価値税などが低い好環境がある中、高い経済成長率が維持されている点を強調した。
講評では野口泰在聖総領事に続き、在ブラジル日本国大使館の山中修公使は「日本政府のEPAメルコ交渉は、公式には『まだ検討中』。だが皆さんの熱意をしっかりと東京に伝えていきたい」と語った。
□大耳小耳□関連コラム
◎
商議所部会長シンポの化学薬品部会発表で、羽田徹部会長は、世界的な大手農薬メーカ―の合従連衡による業界再編が進むと同時に、ジェネリック薬メーカーの攻勢が激しく、「日系メーカーには不安感が漂っている」と報告。また、連邦裁判所が9月3日からグリホサート系除草剤の登録差し止めを決めたため、9月に始まる大豆の作付けに大影響がある可能性について質問が飛び、「この農薬が使えなければ、壊滅的なダメージの可能性も。だが、農務大臣および業界全体が反論の準備をしている。9月までに何らかの動きができるでは」と答えた。現在好調な農業界の大黒柱、輸出の稼ぎ頭である大豆の収穫を左右する農薬だけに、今後の対応状況に注目が集まりそうだ。