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政見放送で2度も失速した「最有力候補」

ルッソマノ氏(左)José Cruz/ Agência Brasil

ルッソマノ氏(左)José Cruz/ Agência Brasil

 大統領選は31日の政見放送を前に、連日にぎやかになってきている。今回の大統領選に関しては29日付本欄でも深沢編集長が「本当に不透明な選挙なのか」と分析を行なっていたが、今回はそれとはまた別の角度から同選挙を占ってみたい▼今回、コラム子が着目するのはズバリ「政見放送」だ。現状の報道では、極右候補のジャイール・ボルソナロ氏(社会自由党・PSL)のネットでの熱い支持を見て「もはや、テレビでのキャンペーンの時代でもないだろう」と報道する向きもあり、逆転を狙う、放送持ち時間で圧倒的なジェラウド・アウキミン氏(民主社会党・PSDB)の楽観的な見通しを疑問視する向きも目立つ▼だが、2012年、16年の全国市長選、14年の前回の大統領選と、3回の選挙をいずれも定点観測してきたコラム子に言わせると、やはり「政見放送の持ち時間」の持つ影響は甚大だと、言わざるを得ない▼そのことを最も端的に示すのは、セウソ・ルッソマノ氏(ブラジル共和党・PRB)の例だ。ルッソマノ氏は12年、16年のサンパウロ市長選に出馬し、いずれも3位に終わっている。だが、同氏の8月、つまり政見放送がはじまる前の世論調査の支持率を見返してみると、いずれも当選しなかったことが信じられないくらい、ダントツの1位だったのだ▼12年の政見放送直前の支持率でルッソマノ氏は31%でトップ。16年のそれでも同じく31%で首位だった。それに対し、結果的に当選した12年のフェルナンド・ハダジ氏(労働者党・PT)は8月時点でわずか8%で全体3位。16年のジョアン・ドリア氏(民主社会党・PSDB)に至っては、5%で全体5位に過ぎなかった▼だが、いざ政見放送がはじまってみると、ハダジ氏やドリア氏は、豊富な持ち時間を利用して徐々に支持率を上げていった。ルッソマノ氏もしばらくは粘るのだが、9月の下旬頃に追いつかれていき、10月の投票本番になる頃には3位へと落ちていた▼その勝負を決めたのは、やはりハダジ氏やドリア氏が持っていた政党大連立による豊富な放送持ち時間だ。それは12分30秒ブロックで5分間ほど、加えて30秒スポットが1日5~10回。ルッソマノ氏は前者で30秒ほど、後者で1日せいぜい1回ほどだった。しかも、そのような結果が出たのは、もうネットそのものも国内で十分普及していた2010年代の話だ▼今回の各候補者の持ち時間を見てみると、アウキミン氏が12分30秒のブロックで5分32秒、30秒スポットが1日平均11回。ルーラ氏、もしくはハダジ氏のPT候補は前者が2分23秒の後者が1日平均5回。その状態が35日も続くのだ。それに対してボルソナロ氏は、サンパウロ市市長選でのルッソマノ氏よりもさらに分が悪い、ブロック放送でわずか8秒。30秒スポットに至っては3日に1度しか流れない。ほんの2年前、6年前のサンパウロ市市長選で起きたセオリーをここに当てはめるならば、本来、勝利するのはかなり難し▼そうした、「政見放送のセオリー」を覆すには、世間全体がよほど既存の政治体制の打破に燃えている、という激しい勢いが必要だ。果たして今回、それはあるのか。それを占う意味でも、これからの5週間は興味深い。(陽)