【深沢】わかります。僕らみたいな邦字紙が、今ブラジルではこういうことが決まりました、こういうときはこういう風にしてくださいという情報を日本語で流して、ブラジルで生活していくうえで摩擦が起きないような役割をしてきたと思うんですよね。
日本のコミュニティにもそういうメディアはあるわけで、それが上手に必要な情報を流していけば、日本語が出来なくても最低限の情報は伝えられるはず。
【島野】日本にもポルトガル語メディアはある。ただ、間違った情報が結構行っちゃうの。
【深沢】フェイクニュースとかね。
【島野】四世ビザの件もこう、皆が口伝えで半分噂話みたいのがどんどん広がっちゃうと、日系人の側に日本政府に対する抵抗が生じてしまう。悪い方向に捉えて、日本人は我々のことをやっぱり差別してるんだっていう風に。
【深沢】四世ビザ制度を通して、パトリシアさんみたいな人材が次から次へ、100人単位で両側から育っていくと良いですね。まさに両側でコミュニティと現地国の中間層になるような人材が、国境を越えて育成されるようなことになりますね。
しかも、四世ビザが成功して永住権ももらえるようになり、そのシステムが五世、六世にも広がっていけば、日系社会を支える人材の永続的な輩出につながりますね。ちょっと夢のような展開かもしれませんが。
【島野】すでにある程度はいると思うんですよね、日本には。日本で育った四世の子供たちもそうなんですけど、もうすでに日本社会で日本人同様にやっていける可能性がある人たちがいると思うんですよね。
【深沢】あと、今後、日本側でとくに力を入れて欲しいのは、四世が日本の大学に進学できるような支援制度の確立ですね。パトリシアさんの時みたいに、大学進学のためにブラジルに帰るという必要がない時代になることが必要ですね。
▼ワーキングホリデービザはどうか
【永井】あれ、まだワーキングホリデー(WH)の話をしていないですけど…。
【深沢】ああ、そうだWH!
【永井】これは重要じゃないですか(笑)
【深沢】やっぱり日系人だけのビザ制度だと手落ちですよね。日本のことが好きなブラジル人にも日本を体験できるような制度としてWH、日伯の間で協定を結んで、ぜひ1万人くらいの規模でやってほしいですね。すでにアルゼンチン、チリでは始まっているんですから、ブラジルでも是非。
【永井】特に最近なんですけど、日系団体でもブラジルの人を排斥するわけにはいかないので、「入りたい、日本文化がすごい好きだ」とかいう人がいると入れることになってきてますよね。そうすると県人会だって「その県のことが好きだ」って人や、旅行をして好きになった人が入りたいんだって言えば、まあ、断りはしないということになるんじゃないかなと思います。
あるいは五世、六世の問題もありますけど、例えばその県人子弟が日本に行こうとしても四世以下だと、研修に行くビザが無いわけんですよね。
【深沢】あ、そうなんですか。そうすると、県人会にも深く関係しますよね。
【永井】大学に入学して学生として行く場合は大丈夫です。ただ、県によっては働きながら研修をするという仕組みのところもありますよね。その場合例えば、なんか仕事で特殊技能を身につけていて技能のビザで行ける人は行けますけど、三世まではあれば日系人としての定住ビザで行けますけれど、四世、五世が日本に県費留学生で働きながら日本で研修しますと言ってもそんな就労ビザは無いわけですよね。
そうすると「来てもらうことはできません」となっちゃうわけで。ただしWHができればその問題も、ブラジル人や五世の人が働きながら日本を知りたいという需要にも応えることが出来るわけです。五世問題の解決にもつながっていくわけですよね。
そのほかの南米の国のWHなんかみてると、その国に行く日本の人が少ないみたいな話があります。けれど、ブラジルの場合は受け入れる窓口がいっぱいあって、ポルトガル語できない人でも日本食のレストランみたいなのもすごくいっぱいありますし、あるいは邦字紙みたいなものとか。
【深沢】日本語学校とかね。
【永井】日本語学校とか、まあ日系団体でもそうですし、いろんな職場がありうるわけですよね。だから受け入れの間口がすごく大きい。行きたい人の数も多いんじゃないかなって思うんですよね。ブラジル日本交流協会みたいな団体がある。そういう間口がもっと広がって交流が盛んになるんじゃないかなと思うので、ぜひWHは検討して欲しいなと思います。
査証免除も同時にやっていただいてもいいですけど、「まずは査証免除」とは言わずに、同時進行で検討して欲しいですよね。
【深沢】ほら日本で若い人があんまり外国に出たがらない傾向があるとか言いますけど、ブラジルはその中でも非常に敷居が低い国だってことが、来たらわかると思うんですよね。
【永井】そうですね。ある意味ちょっと日本の地方都市みたいな雰囲気。まあ、リベルダーデに住めば日本みたいに住めないこともないですし(笑)。
【深沢】永井さんが言われる通り、「ブラジル日本交流協会」(神戸保会長)のように日本の若者を毎年、ブラジルに派遣して生活体験させているような伝統的な団体の存在はありがたいですよね。それに地方の文協とか。別にブラジル人の中に入って行きたければいいですし、日系人のなかで半分日本語使いながらやっていきたかったら、それも可能。そこの選択肢がある。
【永井】すごく広いですよね。
【深沢】そとから日本を見る経験って大事ですよね。現地のブラジル人と接しながら「日本って何なんだろう」って客観的にみて、日本のいいところ悪いところ、ブラジルのいいところ悪いところをみて、いろいろ比較してほしいですよね。
そしたら、日本に帰ったときには、だいぶ違うモノの見方ができるような経験がブラジルだったらできる。
ぜひ110周年記念にね、WH制度を残して欲しいですね。(終わり)