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混乱選挙における日系候補の役割=「倫理」が重要、よく考えて投票を!=法律専門家 原田清

原田清さん

原田清さん

 現在進行中の選挙ほど、困った選挙は今までほとんどなかった。
 選挙日程が正式発表されるよりはるか以前から主流メディアは、資金洗浄などの汚職で有罪判決を受けた囚人(編注=ルーラ)を〃大統領選立候補者〃扱いした。報道の本来の役割を忘れたこの行いにより、彼は話題の中心人物となりえた。
 (選挙が始まる大分前からの)支持率〃調査〃により、彼は無敵の立候補者として社会にアピールされていた。主流メディアは「報道倫理に基づいた行動」を辞め、報道するための「事実」を作りあげてしまったのだ。

▼主要メディアの功罪

 テレビ討論会では、メディアが作り出した規則に従って、この人からあの人へ、反対か賛成か、などの形式的な質問ややり取り、形だけの討議が行なわれ、視聴者にとってはほぼ何も得ることがない〃議論〃が繰り返されているようにみえる。
 その〃議論〃にも呼ばれずに、除外された泡沫立候補者たちは、世論から完全に取り残されている。これがマスコミュニケーションの権力者達による民主主義だ。
 出馬から遠のいた元大統領は喧騒の後、国際連合(ONU)の人権委員会まで巻き込んだ高額な司法戦を続けた後、彼の忠実な〃家臣〃であるハダジを候補にした。しかしハダジは労働者党(PT)の選挙キャンペーンの指揮官ではない。今でも当局の無関心の下で、ルーラが連邦警察の独房の中から操作を続けている。
 こうして、遠隔操作された哀れな人に過ぎないハダジは、大きな声でこう主張した―「もし私が当選すれば、ルーラが私の政府の主要顧問になるだろう!」―それこそ、ルーラが求めていたことだ!
 選挙キャンペーンにおける他のトラブルメーカーは、ナイフで刺され瀕死の重傷を負ったボルソナロ(社会自由党・PSL)だ。現時点までに警察による2度の捜査が行なわれたにも関わらず、未だに襲撃事件の動機は明るみに出ていない。
 さらに国民を驚愕させ、混乱を増やすため、高等選挙裁判所(TSE)がジウマをミナス・ジェライス州代表として上議選出馬を認めた。
 憲法に記載されている大統領の罷免手順に則り行なわれた連邦議会での議員投票で、大多数の票によって弾劾されたはずの元大統領が、だ。
 我々は対立する二極に立たされている。一つは左派、13年におよぶ泥棒政治で国の道徳と経済を滅亡に導いたPTだ。もう一つの右派(編注=ボルソナロ)は、副候補アミウトン・モウロン氏の発言やその他の不正行為についての声明により、女性を中心に国民の大部分から敵意を向けられている。
 これら全てが今回の選挙プロセスを混乱と不安にまみれたものにする。
 どこに中道がいるのか? 誰も知らず、見つけてもいない!
 だが私は、立法府の私達の代表を一新し、国民の希望の声を響かせるため、最も重要な比例選挙についての意見を話したい。
 選挙後の一新された連邦議会では、告発や捜査を受ける議員を排除し、1509億レという異常な財政赤字から祖国ブラジルを救いだすために、国家財政を構造改革することが義務付けられている。

電子投票箱(Foto: Elza Fiuza/Abr)

電子投票箱(Foto: Elza Fiuza/Abr)

▼求められる政治家像は「倫理ある人物」

 つまり、私が強調したいのは、「倫理」という旗印についてだ。これは、広義における良い教育がもたらす市民のあり方という意味だ。
 この旗印は、汚職帝国に対抗する国民の反応として生じ、すでに「フィッシャ・リンパ法」「汚職防止法」という2つの法律に結実している。汚職をした人物は政治家に立候補できない。フィッシャ・リンパ(潔癖な政治経歴)でない候補者はダメだ。つまり、倫理・道徳に反した行為で疑惑の影を持つ候補者は出馬できないようになってきた。
 「倫理」は、善良な国民に選ばれたスローガンであり、我々が直面している危険な状況を意識したものだ。
 悲しいことに、何百万人ものつつましい人々は、彼らに食事を与える社会的プログラム(編注=ボウサ・ファミリア)を作った汚職政治家に対し、病的な執着を見せている。
 その(ボウサ・ファミリア)受給者は、経済における上昇の見通しが持てず、政党による世論操作に操られ、その方向性がさらなる経済停滞に繋がることも理解できない。彼らは13年の間、PTにより洗脳されている。その〃癌〃のためにゆっくりと腐っている。
 この〃ひどい絵〃は新しい国政の代表者らが直さなければならない。倒錯した教育システムの改革も彼らの責任となる。
 国民の税金で汚職を行なう、浪費家で神経の鈍い、機能不全な国家権力を革新し、国家をまとめる力のある一新された連邦議会が必要だ。
 国家権力を制限し、汚職捜査を10倍に増やさなければ、汚職と資金洗浄犯罪の拡大は抑えられない。例えば、司法裁判が終わるのに10~20年かかる場合、警察の措置はどうなるだろうか?
 政府に対して不平不満を並べるだけなのが、ブラジル再建への行動としては最も質が悪い行為だ。政府は民主主義の建設と維持に不可欠であり、〃ドクムギ〃を排除し、倫理・道徳的観点から公正に評価されなければならない。
(編注=「ドクムギの喩え」は聖書の言葉。「毒麦とは悪い者である悪魔に蒔かれた子らであり、その者らは世の終わりの時に、御使いに刈り取られて、火で焼かれる」とされる)
 実際、政治家は国家社会の基本的な代表の一つだ。私達を今までの政治的危機から解放したのは彼らでもある。
 現在の異常な状態を克服するために政治から離れ、情熱的な人々に呼ばれて別の方法(編注=軍事クーデター、共産主義革命など)を取れば状況はさらに悪化する。
 集団のために個人を犠牲にし、倫理・道徳観を持つ人を探し、政府を信じなければならない。
 倫理的であることは、個人ではなく「集団のために行動する」ことだ。個人主義者の不道徳で腐敗した行いが社会の基盤を蝕み、正義に目覚めた人民を蜂起させるのだ。

▼日系人の特性は「倫理的な市民」

 倫理的な市民の子弟である日系人の候補者を見てみよう。私の職業や人生経験から基づくだけでなく、サンパウロ総合大学(USP)医学部所長であり、偉大な日本文化の研究者、ラウル・マリーノ氏の著書『日本人の脳と日本語の重要性』でも、次のように語られている。
 彼は次のようにまとめている。
(a)日本人は形や数字などの漢字を学び、右脳を発達させている。
(b)絵や芸術、禅、音楽、詩や宗教は右脳で学んでいる。
(c)右脳の発達のほとんどは漢字や詩の作成による。
(d)日本人は宗教的、また精神的価値が目立つ倫理的行動を右脳を使い生み出す。
(e)西洋人は日本人ほど右脳を使わず、左脳を好んで使う。アルファベットでのコミュニケーションに慣れ、象形文字を使用しない。
(f)日本人が骨髄縁や脳卒中、脳血管発作などで右脳を失った場合、漢字は使えなくなるがカタカナやひらがなでのコミュニケーションが可能だ。
 倫理感は有機的な起源を持ち、各民族の文化内だけでは生まれないことが判明している。この多民族・多文化の国で利己主義の文化を集団で変えようと話し合うだけでは、倫理的な社会を持つ倫理的国家の構築はできない。
 右脳を刺激し、発達を促すことも必要だ。しかし、私は次の選挙で当選する日系人は、かつて日本移民がブラジルにもたらした農業分野での価値と同じ割合で、苦境にあるブラジルに〃政治的利益〃をもたらすと確信している。
 倫理的な日系人の当選は、国家の暗闇にいる、数え切れない非日系の勇敢で賢く、倫理的な政治家を排除するものではない。
 捜査や脅威、告発がなく、新しく独立した連邦議会では、GDP内に収まらない国の浪費を抑えるための構造改革を始める必要がある。
 良心を持って投票しよう。伝統的な権力者に奉仕する主要メディアに騙されてはいけない。
 私達は祖国ブラジルを、労働者党(PT)によって撒かれた〃種〃である社会経済開発銀行(BNDES)、連邦貯蓄銀行(CEF)、ブラジル銀行(BB)で犯された多くの〃襲撃〃(アサウト、汚職)、石油会社(編注=ペトロブラス)との『同意』やメンサロン事件以前に戻そう。(編注、ここに列挙された政府系機関や公社は、いずれもPT時代に何らかの汚職もしくは、それに近い〃何か〃を強いられていたと見られている)
 市民は意識的な投票によって、国家の財政の規模を縮小でき、社会に法的な安定性をもたらす力と義務を持っている。
 憎しみ、不寛容、暴力の気持ちを捨てて、希望を選び、思想的な縛りから解き放たれた故郷を獲得しよう。
 大事なことは、市民権を行使して意識的に投票すること。この共和国の大統領に選出された者は、法的および憲法上の制限内で、それを尊重しながら権力を行使すること。それは市民の倫理的行動が決定するものだ。
(編注=このコラムの内容は、原田清さんの個人的な意見です)