9月23日、故郷巡り4日目。出発時刻の一時間前にはほとんどの参加者が荷物を抱え、ロビーで待機していた。その間、故郷巡りの常連でサンパウロ博物研究会に所属する小山徳さんが、受付の女性に街路樹の名前を質問していた。
その女性が度忘れしたと言って、他の職員に聞いて戻ってくると「オイチ」というバラ科の植物だと言う。その女性は「近くの広場に野生のインコがたくさん。もう見ましたか」と尋ね、「野鳥観察にくる旅行客もいるくらい。今度来るときはぜひ見てみて」と教えてくれた。
調べたら、G1サイト16年12月28日付に「ルリコンゴウインコがサンタフェ・ド・スールを繁殖先に」との見出し。その記事によれば、10年から繁殖期になると町にやってきて巣を作り、年々増殖している。その巣の保護と観察のため、市民団体「ルリコンドウインコ・プロジェクト」まで組織され、野鳥観察が秘かなブームになっているようだ。
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そんな話をしているうち出発時刻となり、次の目的地であるイーリャ・ソウテイラに向かった。現地に着くと、同市観光局員がバスに乗り込み、車窓から市内観光地を案内してくれた。この日は休日だったため、観光地にも係らず殆んどの店が閉まっていた。記念撮影をするというので下車したところ、ベンチに腰掛けていた参加者に話しかけてみた。
夫と参加した高松玖枝さん(香川県)は、第25回からほぼ毎回故郷巡りに参加している常連だ。「参加者は一世も少なくなり、昔両親に連れ添ってきていた二世の世代に移り変っているよう。今回は初めて顔を見る方がたくさんだわ」との印象を語った。
故郷巡りに参加しはじめた理由を聞くと「脳内動脈瘤破裂で主人が下半身麻痺になり、医者からは『もう歩けないかもしれない』と言われた。それで、主人のリハビリのため参加するようになったんです。旅先では色々な人と親睦を深められるし、外に出たいという動機付けにもなるから」と話し、「そういった意味では、もう目標は達成されたんですけどね」と夫と顔を見合わせ、笑みを浮かべた。
高松さんと話していると、隣に腰掛けていた婦人が「この辺りにチエテ移住地があって、親族が住んでいたのよ」とポツリと語り始めた。なんでも「親の遺骨を取りに後年になって親族が訪れたところ、発電所建設で墓地が水の底に沈んでおり、仕方なく湖畔の手前の土を代わりに持って帰った」のだとか。
「住んでいた土地が湖の底に沈み、移転を余儀なくされた日本人も居たんじゃないかしら」――そんな話をしているうちに休憩時間も終わり、婦人の名前を聞きそびれたまま、バスに乗り込んでしまった。(続く、大澤航平記者)
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