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臣民――正輝、バンザイ――保久原淳次ジョージ・原作 中田みちよ・古川恵子共訳=(2)

 最終的に日本の敗戦を認識し、日本にはもう帰れないという厳しい現実に直面したとき、はじめてブラジル生まれの子どもたちの教育に的が絞られた。農業をすて、都会で生き延びる方法を模索したのである。こうして、家族は急激にブラジル社会に溶けこんでいった。まず、家庭内ではポルトガル語が使用された。同時にまた経済の向上を根気よく図りもしたが、この点に関しては保久原家はたいした成果をあげられなかった。

 移民たちはよく「これほどの犠牲を払う価値があるのだろうか?」と自問したものだが、正輝の場合も同様だった。この本はそんな疑問に回答をえようとして書かれたものである。
 執筆にあたり、日本移民に関する書物や文献をほとんど全部あさった。書店や古本屋で入手できなかったものは、マリオ・デ・アンドラーデ・サンパウロ市立図書館で調べた。これらの文献にはブラジルで出版された何十冊もの書名が挙げられているが、見つからなかった本が二冊ある。
 神の配慮というべきなのか。その二冊はこの本の主人公が被告人となった臣道聯盟訴訟中のある時期、裁判の経過に関係した弁護士たちによって書かれたものだった。一冊は1940年の終わりに、もう一冊は1960年に出版されているが、残念なことに二冊とも絶版になっている。
 また、ポルトガル語以外にも英語やスペイン語で書かれた日本の歴史、沖縄の歴史、ブラジル以外の外国への日本移民史も、沖縄の宗教についても参考書をめくったし、さらに、主人公が家庭内で読んでいたものまで目を通している。
 臣道聯盟に関する一次資料は、サンパウロ市サンターナ区のサンパウロ州立文書館所有の保管書と“O Estado de Sao Paulo”新聞の保管所にあるDOPS(サンパウロ社会政治警察)に関する書、そして、臣道聯盟の裁判記録書から採取した。
 著者は許可を得てすべての経過報告に接することができたが、被告人の数、調査用紙の枚数、そのファイル数からいって、当時においてはブラジルの歴史上もっとも大量の裁判記録だということがいえよう。執行令状もふくむと総数300数冊におよんだが、非常に良好な状態で保管されていた。これらの書類はサンパウロ市イピランガ区ソロカバノスにある司法局の保管所で作者の手もとに託されたのである。大量の裁判記録を参照することによって、前記の入手できなかった2冊の報告書の内容を埋め合わせることができたのは幸いであった。
 また、正輝とともに暮らした人々の証言も得ることができた。筆者は主人公の生涯について、貴重なエピソードを知ることができ、これらの証言は正輝の人格を理解するうえで重要な手がかりとなった。
 モオカ区にあるメモリアル・デ・イミグランテ(サンパウロ州立移民博物館)、ブラジル日本文化福祉協会(文協)のブラジル日本移民資料館(7、8、9階)、に何度も足をむけ、本に書かれたエピソードの背景をも知ることができた。
 参考書や情報源は注釈(380ページ以降)に書かれているので興味のある読者は目を通していただきたい。興味のない読者はこの作品を理解するのに別に支障はきたさないので、読み捨てにしていただきたい。