上山りのんちゃんが出演する場面
現在、サンパウロ市で絶賛上演中のミュージカル『Annie, O Musical(アニー)』に、駐在員子弟の少女が出演している。上山りのんちゃん(11、東京都)は、3500人以上の応募者の中から倍率150倍という狭き門を突破し、主人公・アニーとともに孤児院で暮らすケイト役に抜擢された。在伯わずか2年半ながらポルトガル語を習得し、夢の舞台に立った〃小さなミュージカル女優〃に話を聞いた。
「アニーは小さい時からずっと出演したかった作品。まさかブラジルで舞台に立てるとは」――まだ邪気なさの残る彼女だが、話を始めると女優さながら。しっかりとした口調で、出演までの経緯を振返った。
ピアノ教師の母のもと、音楽に恵まれた環境に生まれた。「お母さんのお腹にいた時から、音楽を鳴らすとお腹を蹴っていたそうです。生まれてからも、しゃべる前から歌を口ずさんでいたと両親から聞いています」と話す。
ミュージカルに興味を持ったきっかけは3歳の時に見た『キャッツ』。「物心付く前なので覚えてはいませんが、何度も何度も繰り返しDVDを見ていたようです」と笑う。「アニーを初めて見た時には『これにいつ出れるの?』と母に聞いたそうです」という。
その後、4歳から子役を育成する「シノザキシステム」に通い始め、歌唱や演技を本格的に学び始めた。そして、初めてオーディションに臨んだのが念願の『アニー』だった。その出演は叶わなかったものの、『ズボン船長』で初デビュー。
これを皮切りに、15年には倍率150倍以上の激戦を突破し、日本中で喝采をさらった大人気作『レ・ミゼラブル』に主人公の娘リトル・コゼット役などに抜擢され、要となる役所を堂々と演じた。
日本で頭角を現し始めた頃、父の転勤に伴って16年4月に渡伯。「当初は、ミュージカルはできないものと思っていた。でも、学校の友人から子役を育成するスタジオがあると聞いて通い始めた」と話す。
だが出演には言語の壁があった。「初めはポルトガル語が出来なかったから、出演からは程遠かった。ポルトガル語の授業が多いインターナショナル・スクールに変えて勉強した」。この努力が結実し、2年越しとなる夢の舞台に立つチャンスを掴み取った。
「歌も踊りも演技も、ミュージカルには好きなことがつまっている。舞台にはドラマや映画にない、本当にやっているという臨場感がある。何度も繰り返すことが出来るから演技にも磨きがかる」と醍醐味を語る。
「演技は自己完結するものではなく、見ている人に夢を持ってもらえるように演じるのが女優です」と目を輝かせた。
昨年5月に本場米国のブロードウェーを観て衝撃を受けた。将来の夢は「日本でミュージカル女優になること」だ。りのんちゃんは、異国の地で夢に向かって突っ走っている。
□関連コラム□大耳小耳
『アニー』は、ハロルド・グレイの新聞連載漫画「小さな孤児アニー」を原作として製作され、1977年に上演されたミュージカル。どんな時も夢と希望を失わず孤児院で暮らす少女アニーが、本当の両親を探すことから物語が展開されるミュージカルの名作だ。爾来、3度に及び映画化され、世界40カ国以上で上映されてきた大人気作なだけに、当地での子役のオーディションには3500人以上が殺到。全伯5都市でオーディションが実施され、最終選考では90人近くにまで絞られた。3日間の強化訓練の後、狭き門を突破して選抜された21人のうちの一人が、りのんちゃんだ。
◎
本作の上演時間は160分(15分休憩)。その内の半分くらいに、りのんちゃんが出演する。りのんちゃんによれば、公演には実際に孤児院の子供たちも観にきたのだとか。「お父さんやお母さんが必ずいるということを感じてもらえたかな」と思いを馳せ、「始めは悲しいけど、信じて頑張れば最後には良いことがあるというのがこの作品のメッセージです」と見所を語った。今月のりのんちゃんの出演予定は以下の通り。12月1日午後4時半、2日午後7時、7日午後9時、9日午後3時、13日午後9時、15日午後9時。入場料は、75~310レアル。場所サンタンデール劇場(Av Juscelino Kubitschek, 2041)で一月まで上演中。