日系社会にとって、2019年はどんな年になるのか?――ブラジルではボルソナロ新大統領が就任した一方、日本では平成の世が30周年を迎え、5月に改元するという大きな節目にある。
四世ビザ制度が軌道に乗れない中、34万人もの外国人労働者を受け入れる方向に日本政府は大きく舵を切った。日系社会は否が応でも、両国の動向に大きな影響をうけながら、新年を歩んでいくことなる。
まず、日系社会的に気になるのは、4月の文協会長選挙の行方だ。呉屋春美会長は昨年末、「次の会長選挙には出ない」と明言。
日伯修好120周年、日本移民110周年という大きな節目をこなしてきた呉屋会長だけに、十分に働いてきたと言えそうだが、文協経営立て直しに関しては大きな進展はない。そして110周年の結果、国士館スポーツセンター改修工事が始まるが、不足資金を集めるという大きな仕事が待っている。
不足する分は、菊地義治110周年実行委員長が集めた300万レアル以上に比べれば微々たる金額かもしれない。だが、文協ビル地下の文化スペース改修費100万レアルがなかなか集められなかった現実を考えれば、次の会長にはエリート公務員出身の人物よりも、私企業経営者を経験した集金能力の高い人物が望ましいと言えそうだ。
すでに、元NECブラジル社長、現サンタクルス病院理事長の石川レナート氏を推す声が多いと聞くが、今後の動向に注目したい。
今年半ばからはジャパン・ハウスが3年目に入り、独立採算へ向けた新しい経営に舵を切り始める。せっかくこれだけ話題を集め、文化施設として定着しつつあるのに、規模縮小とか入場者大幅減少などのイメージダウンに向かうようでは、日系社会的にも心もとない。
いったん作った以上、日本政府にはしっかりと持ちこたえてもらいたい。
7月には第22回県連日本祭りが開催される。110周年式典の会場となった昨年は、過去最大規模の展示スペースとなった。必ずしも「大きいことが良いこと」ではない。「長続きすることも大事」という部分もある。「コロニアの身の丈」を常に意識し、大きくなり過ぎない注意も必要な時期に入って来たのではないか。
大きいといえば、日系社会最大の組織となったサンパウロ日伯援護協会が、今年60周年を迎える。日伯友好病院を大黒柱に4つの医療施設、6つの福祉介護施設を擁する団体に育ち、総職員数はなんと約2千人を数える。同病院は昨年30周年を迎えた際、第4病棟建設を発表し、今年建設される。
医療業界は生き馬の目を抜く苛烈なビジネス世界であり、会社的にプロが経営するのが当たり前。援協のように病院経営の素人ボランティアで頭を寄せ合ってやっていくあり方で、今後も大丈夫なのか。
気が付いたら、業界動向からすっかり遅れを取り、大手病院グループに買収される―なんてことにならないよう、しっかりと手綱を引き締めてほしい。コチア産業組合中央会、南伯農協、南米銀行という過去に学び、日系性を継承・維持しながらもブラジル社会にしっかりと貢献する日系団体としての体制を盤石にしてほしい。
そして、毎日のように一世の訃報が邦字紙に載る時代だからこそ、独身者、子供のいない夫婦などに向け、人生の終わりを準備をする「終活セミナー」を援協にはお願いしたい。
例えば、本人が何宗だったのか、残された周りが知らない場合がある。生きているうちから自分の葬儀のやり方や費用の段取りを付けたり、残されるアパートなどの不動産を援協や最寄りの日系団体に寄付したい場合はその手続き、残される銀行口座や資産相続人や代理人手続きのやり方など、援協が弁護士や手続きの専門家を呼んで準備セミナーをやってほしい。
看取ってくれる子孫がいない移民が、尊厳を持って自分の人生を終えられるように、援協にはしっかりと手伝ってほしい。
援協の使命は事業拡大ではない。「移住者支援」こそが原点であり、最大の使命のはずだ。それを達成するための手段として病院があり、経営を安定させるために規模拡大をしているはず。本末転倒しないよう、節目の年だからこそしっかりと原点を見直してほしい。
忘れてはいけない大きな節目は、9月のアマゾン入植90周年だ。すでに100周年に向けた心構えで、今回の祝典を準備していると聞く。
新年特別号に寄せられた汎アマゾニア日伯協会の生田勇治会長のメッセージには重たい内容があった。
いわく「日本政府は経費削減を名目にベレンの総領事館を領事事務所に降格させるという思ってもいなかった処置を取り、私共移住者や日系社会を軽視するかの様な愚策に出ました。歴史的に親日的なパラー州(戦前の排日論の高まりの中でアマゾナス州と共に日本人移民を受け入れている。戦後も国交が回復してい無い時期から、いち早く日本人移民を引き受けた)を、経費削減という名目だけで今更見捨てるとは、今でも当地方日系人は納得が行っていません。本年の90周年記念の年を機会に、日本政府には是非再考して頂き記念祭への良きプレゼントとして頂けることを切に願うものです」とのこと。
日本政府には、しっかりと受け止めてもらいたい。(深)
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