「サンパウロ州が、私たちの活動を3人一緒に認めてくれたのが何より嬉しいですね」――被爆者平和協会の森田隆会長(94、広島県)が8日午後7時、聖議会で行われた「広島被爆者への顕彰式典」でサンパウロ州名誉功労賞を授与し、喜びを語った。森田会長は広島での被爆経験を演劇にして公演し、平和活動に貢献してきた。同じく活動している盆子原国彦副会長(78、広島県)、渡辺淳子理事(76、広島県)、舞台監督を務めたロジェリオ・ナガイ氏も共に授与された。平和の大切さを訴え、今後の活動継続を誓った。
森田会長、盆子原副会長、渡辺理事は2013年からサンパウロ市の支援を受けて被爆経験の公演を開始。三世で俳優のナガイ氏が監督を務め、3人が広島県に原爆投下された様子を舞台で演じている。平和普及活動として学校で講演等も行う。
この活動に対し、キクドメ・マサミ・ペドロ州議の働きかけにより、州議会の顕彰が決定し、この度の受章に至った。
森田会長は当時憲兵として広島県に赴任し、1週間後に被爆。全身に火傷を負いつつ人を助ける中で、戦争の無残さを痛感した。戦後74年となる今も、当時の思いを伝えるために精力的に活動する。今回の受章について「ありがたい」と目を瞑り喜びを噛み締めた。
孟子原副会長は、受章後のスピーチで放射能の恐ろしさを強調。放射能は何万年も消えず、原発に汚染された場所は常に危険に晒されていると説いた。今回の受章は「ブラジルにいる被爆者、原発で亡くなった人たちと一緒に貰ったものです」と光栄な様子で語った。
2歳で被爆した渡辺理事は、60歳で協会に入った。活動に対する表彰に感激しつつ、1987年のゴイアニア被曝事故、サンパウロ市内に放射能ゴミがあることに言及。「被爆経験を抱えて生きている人の事を若者に知ってもらい、平和な世の中にしてほしい」と訴えた。
ナガイ氏は森田会長と出会い、監督・進行役を務め、被爆者の舞台を作ることになった。本人も原子爆弾開発のきっかけを作ったレオ・シラード氏の物語を舞台で演じている。ナガイ氏は、これからも被爆者3人と共に、世界平和の実現に貢献したいと語った。
式典では森田聡領事、移民110周年記念祭典委員会の菊地義治実行委員長などの来賓者が出席し、祝辞を述べた。式典中には天竜和太鼓、桜吹雪和太鼓、ACAL太鼓、アルジャー太鼓、一魂和太鼓、ミカ太鼓の6グループが力強い演奏を披露し、華を添えた。和太鼓のブラジル普及に貢献した矢野ペドロ氏も同賞を授与され、感謝の言葉を述べた。
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今回、被爆者平和協会の受章のために尽力したのはペドロ・カカ州議。叔母が広島県の人と結婚していたため、広島県まで会いに行ったことがあると言う。その際に原爆ドームまで足を運んだそうだが、原爆の悲惨さに強いショックを受けた。「あの時に戦争は絶対に起こしてはダメだと思った」と当時を振り返り、「ブラジル社会にもその事を伝えたい」と語った。ペドロ・カカ州議のように広島を訪問しなくても、被爆者3人から話を聞くだけでその衝撃は大きい。式典にはブラジル人が大勢来ていたが、3人のスピーチを聞いて「原爆は恐ろしい」「戦争は絶対にダメだ」という感想が聞こえてきた。森田会長によれば、平和活動で学校を訪問する時も、生徒からの反響は大きいよう。ブラジルでも反戦世代が着々と生まれているようだ。