読売新聞主催「第40回医療功労賞」授賞式のため2012年3月に訪日した日本移民110周年記念委員会実行委員長の菊地義治さんは、新聞報道でその滞日をお知りになった陛下から昼食会への招待を受け、菊地夫妻のみで両陛下に一時間超に及んで特別拝謁するという類まれなる栄に浴した。
菊地さんは「陛下はご訪問された各地の日系社会のことをとにかく気にかけられ、ご下問が絶えず、話が途切れることがなかった」と話す。
「『フンシャル移住地はその後どうなっていますか』とご下問され、『グアバなど果樹栽培が盛んで、辺鄙な場所でしたが、交通の便も人々の生活も良くなりました』とお答えすると、喜んでおられました」という。
菊地さんは「移民についてよくご存じで、両陛下の並々ならぬ思いやりを感じた」と語る。両陛下は過去3度に及んでご訪問されるのみならず、ずっと心を寄せて移住者の幸せを願い、日系社会の行く末を温かく見守られてこられた。
「皇室が二千年以上に亘って続いているのは、建国以来、天皇が国民を思いやってこられたから。その積み重ねがあるからこそ、移民三、四世であってもご接見を受けて感激し、それが日系社会の発展をもたらしている」と見ている。
陛下は、同年2月に心臓バイパス手術を終えたばかりで体調が万全ではなかった。にも関わらず、ブラジルから遥々来日した菊地夫妻のために、その日に皇居内で陛下が摘んだ春の七草の一つ、野蒜の和え物が膳に上がっていた。
別れ際には「移住者の皆さんにどうか宜しくお伝えください」と宣ったという。「我々日系社会は、両陛下に感謝しつつ、そのご恩に報いなければ。120年、130年と日系社会が続いていくよう次なる人材を育て、日伯交流の発展に貢献していかなければいけない。移民は移住して終わりではないですよ」と背筋を正した。